研究実績の概要 |
課題1) 電荷移動型超分子ローターの開発:共昇華法を用いて、ボウル型コランニュレンとTCNQから成る電荷移動(CT)錯体の合成に成功した(Y. Yoshida et al., Chem. Lett. 44, 709 (2015))。分離積層と交互積層が交互に並んだ稀有な構造を有しており、温度因子の異方性から分離積層内のコランニュレン分子は100 Kにおいても軸回転していると予想される。一方、交互積層内のコランニュレン分子において、隣接TCNQ分子とのCT相互作用が凸面と凹面で大きく異なることを見出した(拡張Huckel計算から算出した重なり積分値より)。 分子の対称性が分子集積や固体中での回転挙動に与える影響について検討するために、ベンゾ[ghi]ペリレン分子を用いた錯体作成も始動している。現在までに交互積層、分離積層、非積層構造を有するCT錯体の合成に成功している。 課題2) 超伝導体の開発:溶液中での電解酸化により、分離積層構造を有する初のコロネン陽イオンラジカル塩(coronene)3M6O19(M = Mo, W)の合成に成功した(Y. Yoshida et al., 論文投稿中)。交互積層や非積層構造を形成するコロネン分子に比べ、面内回転速度が4~6桁小さいことを見出した(課題1に該当)。また、低温での結晶構造解析から、コロネン陽イオンの静的Jahn-Teller歪みの観測に初めて成功した。Raman測定やDFT強結合モデル計算から、(coronene)3Mo6Cl14で観測された電荷不均一は起きていないこと、すなわち部分酸化(+2/3価)コロネン分子から成る分離積層の構築を確認した。しかしながら、積層様式がユニフォームではないために良導電性(0.05 S cm-1 for M = Mo、3.0 S cm-1 for M = W)を示すもののバンド絶縁体であった。現在は、圧力下での伝導度測定や、完全+1価コロネン分子が分離積層を形成した陽イオンラジカル塩の諸物性評価を推進している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
課題1) 電荷移動型超分子ローターの開発:多彩な集合様式(分離積層、交互積層、非積層構造)を有するコロネンCT錯体の開発に成功したことにより、結晶構造、すなわち分子間相互作用と回転挙動の相関について多くの知見を得ることができた(Y. Yoshida et al., Cryst. Growth Des. 15, 1389 (2015))。また、中性CT錯体(coronene)3TCNQや陽イオンラジカル塩(coronene)3Mo6Cl14において、コロネン分子の固体中での超高速回転(> 10 GHz)を実現した(Y. Yoshida et al., Eur. J. Inorg. Chem. 2014, 3871 (2014))。コロネンCT錯体の良質単結晶育成(拡散法、共昇華法、電解酸化法など)に関するノウハウも着実に蓄積している。コランニュレンやベンゾ[ghi]ペリレンといったコロネン関連分子を用いたCT錯体の開発も着実に進展している(Y. Yoshida et al., Chem. Lett. 44, 709 (2015))。 課題2) 超伝導体の開発:等方的3次元構造を有するコロネン陽イオンラジカル塩(coronene)3Mo6X14(X = Cl, Br)に続き、分離積層構造を有する(coronene)3M6O19(M = Mo, W)の開発に初めて成功した(Y. Yoshida et al., 論文投稿中)。この錯体について諸物性測定ならびに理論計算を行うことにより、これまで全くの未知であった固体中でのコロネン陽イオンの性質(電子状態や幾何構造)について多くの知見を得ることができた。現在まで、金属的挙動を示すコロネンCT錯体の開発には成功していないものの、その実現において必須とされる条件、(1) コロネン分子の部分酸化状態、(2) π積層の構築、(3) 積層内でのコロネン分子のユニフォームな整列、のうち(1)と(2)についてはすでに達成している。 以上の理由から、本研究プロジェクトは当初の目標を超える研究の進展があり、予定以上の成果が見込まれると判断した。
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