研究概要 |
大規模カゴ型骨格の内部にπ電子系を架橋した分子を、結晶中でもπ電子系が1軸回転可能な「分子ジャイロコマ」として設計し、結晶内部の回転運動の観察とそれに由来する機能性について検討している。本年度は、双極子モーメントを有する回転子として、チオフェン環を架橋した分子を設計し、検討した。 チオフェン架橋分子ジャイロコマは、すでに報告済のベンゼン架橋体と同様に合成することができた。単結晶の構造解析をX線回折実験で行ったところ、個々の分子が回転軸を揃えてスタックした結晶構造をしていた。チオフェンには0.52 Dの双極子モーメントがあり、結晶内部での配向秩序に興味が持たれる。低温(200 K( = -73 ℃))での構造解析の結果は、結晶全体として分極を打ち消すように隣接分子同士で5員環の向きが反対になるように整列していた。興味深いことに、温度上昇と共に相転移を伴って、結晶内部のチオフェン環の配向が変化し、285 K( = 12 ℃)以上では、配向無秩序化が観察された。さらに、この無秩序相ではチオフェン環が回転することや、結晶複屈折が変化する機能性を明らかにした。本研究成果は、化学専門誌上で報告した(Setaka, W.; Yamaguchi, K. J. Am. Chem. Soc. 2013, 135, 14560-14563. )。 また、類似の分子ジャイロ誘導体においてチオフェン環の酸化において、カゴ骨格の立体保護効果により、反応速度が顕著に遅くなることを報告した(Setaka, W.; Ohmizu, S.; Kira, M., Chem. Commun. 2014, 50, 1098-1100.)。 さらに、関連する分子ジャイロの合成や性質に関する論文発表2件(Org. Lett. およびOrg.Biomol.Chem.)を行い、分子ジャイロの合成法と結晶複屈折制御法の特許が計2件成立した(特許第5235927号、および特許第5274506号)。
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