研究目的に従い,ハロゲン結合を誘発する低分子化合物を探索した結果,単純な構造を持つα位が塩素化されたβケトエステル類にその性能を見出すことに成功した。まず,化合物のX線構造解析を行ったところ,分子間における塩素原子と酸素原子間の距離(L = 3.04オングストローム)は,両原子のvan der Waals半径の和(3.27オングストローム)に対して0.27オングストローム短いことが判明した。さらに,α位を臭素化した化合物を合成し,X線結晶構造解析を行ったところ,臭素―酸素間の距離(L = 2.98オングストローム)はvan der Waals半径の和(3.37オングストローム)より0.39オングストローム短い結果となった。 以上のことから,電子求引性の置換基を近傍にもつsp3炭素に結合したハロゲン原子がハロゲン結合供与体として機能すること可能性が判明した。次にハロゲン結合型触媒の開発を念頭に,ハロゲン原子の中で最も分極率の大きいヨウ素原子を導入した分子の設計を行った。構造を精査した結果,我々がこれまでに開発したフッ素官能基化試薬FBSMに見られるビススルホニル骨格を有したsp3炭素に着目し,同骨格にヨウ素原子を導入したFIBSMをハロゲン結合型触媒とすることとし,その合成を行った。まず,合成に成功したFIBSMについてX線構造解析を行ったところ,予想通り分子間でのヨウ素―酸素間に強固なハロゲン結合を見出した。続いて,X線構造解析において分子間ハロゲン結合が観測されたFIBSMを触媒として用い,脱塩素化を伴うクロロイソクロマン誘導体を反応基質としたモデル反応を行った。その結果,無触媒での反応に対して目的物の収率が大幅に向上した。この実験結果は,本分子FIBSMがハロゲン結合性のアニオンレセプターとして触媒的に機能することを支持している。
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