研究課題/領域番号 |
25288054
|
研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
大久保 政芳 神戸大学, 工学(系)研究科(研究院), 名誉教授 (30031131)
|
研究分担者 |
竹内 俊文 神戸大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (70179612)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 機能性微粒子 / マイクロカプセル / 制御リビングラジカル重合 / 蓄熱剤 / 中空高分子微粒子 / 乳化重合 / マイクロサスペンション重合 |
研究実績の概要 |
本研究では、本邦で開発された制御リビングラジカル重合を水分散系で適当することを第1の目的としている。その一つである有機テリリウム可逆連鎖重合(TERP)については乳化重合系に適応し、その方法を確立することができた。しかも、従来、困難とされてきた分子量分布の狭い超高分子量(>106)ポリスチレンの合成に成功したことは特筆すべきことである。その成果を昨年11月上旬に千葉大学で開催された第19回高分子ミクロスフェア討論会において2件の研究発表として代表者が発表し、2件のオリジナル論文として欧米誌に報告した。さらに、本邦で開発されたヨウ素移動重合(ITP)をマイクロエマルション系に適応し、ミクロンサイズの高性能蓄熱剤マイクロカプセル粒子の作製に成功した。この成果は長年にわたって(マイクロ)サスペンション重合系において問題にされてきた乳化重合の併発を抑制する技術としても有効であり、現在行われている工業的生産レベルでも大変有効な貢献をなす知見である。上記と同様に2件の研究発表として代表者が発表し、2件のオリジナル論文として報告した。これらの成果をさらにこの6月にタイのバンコックとスペインのアトランザスにおいて開催される二つの国際会議において代表者が招待講演として発表する予定である。 また、分担者の竹内俊文教授グループにより進められてきた高分子微粒子表面上を修飾してのバイオセンサーへの応用に関する研究も順調に推移してきた。本年度は、とくにこれまでの成果を発展させ、光反応性Cinamoyl基を有効活用して粒子表面層に橋かけ構造を導入し、その後未架橋core部を溶剤抽出して取り除くことにより、代表者らの提起する中空高分子微粒子の創製法とは異なる、新規な中空高分子微粒子の合成に成功した。互いの研究成果を議論する中から生まれた成果で有り、本基盤研究の成功例として高く評価できる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本邦で開発された制御/リビングラジカル重合(CLRP)を水分散系に適応して機能性高分子微粒子の創製を図る下記の当初計画通りに研究は進行し,成果発表論文が注目され、研究代表者自ら複数の国際会議において招待講演の機会が与えられている。 1)有機テリリウム可逆連鎖重合(TERP)を用いる研究は,当初はモノマー滴内を重合の場とするマイクロサスペンション重合(ms TERP)への適応から開始したが、その知見を基に、工業レベルでの活用を視野に入れた無乳化剤乳化重合(emulsion TERP)系へ検討を進め、その粒子生成機構を明らかにするとともに高固形分濃度の合成にも成功した。 2)ヨウ素移動重合(ITP)ならびに可逆連鎖移動交換重合(RTCP)を無乳化剤乳化重合系に適応し、上項のemulsion TERPの制御精度には少し劣るもののemulsion ITPの可能性を明らかにした。この研究成果は第4項で述べるms ITPへの応用において大変有用な知見を与えた。 3)真球形のヤヌス構造を有する複合高分子微粒子をシードとする水分散系でのメタクリル酸ジメチルアミノエチルのCLRPより、温度・pHに感応するMushroom状粒子の作製に成功した。さらに、この粒子は温度・pHにより系の安定性が制御でき、ピッカリングエマルション用の粒子安定剤として新規な応用分野を開拓した。 4)蓄熱剤マイクロカプセル化において従来の熱特性の取り扱い(J/g-カプセル粒子)が工業的には合理的であるが,基礎研究としては(J/g-蓄熱剤)として評価すべきことを明瞭に示すと共に、ms ITPを用いて高性能蓄熱カプセルの合成に成功し、マイクロカプセル化技術の発展に極めて重要な提言を行った。 5)光反応性官能基を高分子微粒子中に導入し、その表面層において選択的に光架橋をすすめることにより新規な中空高分子微粒子の合成法を提案した。
|
今後の研究の推進方策 |
本基盤研究(B)期間延長申請が許可されたことを受け、以下に示すようにタイ並びに中国との国際連携の下に着実に研究の整理、まとめを進め、成果発表を行う。なお、本年3月末をもって分担研究者による研究は終了している。 1)特別な試薬を必要とせず、その制御に甘さはあるものの工業的生産に十分に適応可能と期待されるCLRP としてヨウ素移動重合(ITP)を水分散系に適応する Emulsion ITP,及びMicrosuspension ITPについては,今後もタイ並びに中国においてその可能性を拡大する実験を継続する。神戸大学においてはその生成物のキャラクタリーションならびにsimulation研究を進行させる。 一昨年、蓄熱材カプセル粒子の創製に関する長年にわたる世界研究グループが採用する誤った“常識”を指摘し、その訂正を求める論文を英国化学会の出版するPhysical Chemistry Chemical Physics誌に発表した。昨年度は、さらに、その点をより明確に強調する形で、制御リビングラジカル重合を積極的に活用したモノマー利用収率100%でのポリメタクリル酸メチル蓄熱材カプセル粒子の創製に取り組み、その成果をこの分野の権威ある専門誌であるSolar Energy Materials & Solar Cells誌に報告した。これらのことにより、代表者らの主張は徐々に評価され始めており、本年6月のタイならびスペインでの国際会議の場に招待講演の機会を与えられた機会を利用して本研究の成果を報告し、蓄熱剤マイクロカプセル粒子の開発の加速に貢献する。さらに、この研究から派生した、マイクロサスペンション重合において長年、問題とされてきた乳に化重合の併発によるサブミクロン粒子の発生を抑制できる可能性を見いだし昨年論文発表したが、さらに親水性モノマーを対象にその適応拡大を図る。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者が2016年6月より南京工業大学先進材料研究院に特別招聘教授として異動したために当初予定した研究成果発表のための国際会議への出張旅費の執行が出来なかったことや実験を伴う研究計画について大幅に変更する必要が生じたため、当初予定した研究費執行計画通りに遂行することが出来なかった。
|
次年度使用額の使用計画 |
本科研費により雇用している研究補助員の協力を得て進めているシミュレーション研究を継続するための人件費並びにその打ち合わせのための研究代表者の出張交通費、及び本研究の成果発表を行うためにスペインで開催される国際会議への出張旅費に使用する計画である。
|