研究課題/領域番号 |
25288056
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
小柳津 研一 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (90277822)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 有機負極 / 電子交換 / 電荷貯蔵 / 交差反応 / 整流素子 / キノン / 電荷補償イオン / 充放電 |
研究実績の概要 |
高密度アントラキノン置換ポリマーによるn型高速電荷輸送の実現とこれを有機負極とする有機空気二次電池の実証を起点として、卑な電位での電子交換反応に立脚した導電・蓄電現象に関わる基礎化学の確立を目指して展開した。 1. 電子・イオン輸送の解明 (1) 有機負極の特性評価:前年度に得られたポリマーを導電助剤と複合し、最適条件を検討した。導電助剤として各種ナノカーボンを検討し、分子ラッピングを含めポリマーと高い親和性を保った複合電極を創出した。有機負極としての位置づけを定量化し、ポリマー合成に随時フィードバックさせた。(2) 電子・イオン輸送現象の解明と制御:電極上に形成されたn型ポリマー層のレドックスは、レドックス席の反応性だけでなく、溶媒分子の浸透性や、電荷補償イオンの分配係数および拡散性に支配されることを明確にした。アントラキノン類の速い外圏的電子移動が、ポリマー層中でも大きな交換速度定数を与えることを実証し、高速電荷輸送可能なn型層を創出した。また、実測容量がレドックス席数と直線関係にある条件を明らかにし、レドックス系としての理想的振舞いを示す範囲を把握した。電気化学応答による物質収支の定量とあわせ、輸送現象を解明した。活物質としての化学安定性や耐久性も把握し、高速・大容量の有機負極活物質として具体化した。 2. ヘテロ接合面のボトムアップ集積 (1) 高度輸送性を目指した共役鎖の組込み:n型ポリマーによる電荷輸送の概念を拡張し、分子細線としての共役鎖を組み込んだ複合系を対象として、革新的電荷輸送・貯蔵ポリマーを創出した。π共役系との分子レベルの複合化により電荷輸送効率を高める手法で、活物質の設計指針を確立した。(2) 交差反応に立脚した新物性の開拓:n型レドックス席を有する高密度ポリマーを用いて、電位の異なる接合面での交差反応に基く整流性を引き出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
第2年度の計画が順調に進行したので、第3年度計画を一部前倒しし、ヘテロ接合面のボトムアップ集積に注力して展開した。この結果、n型電子交換に基く導電現象の解明と、電荷輸送を支配する界面化学の追究を経て、高密度n型ポリマーの合成・物性化学の確立とエネルギー変換の高密度化をはかる目標に対し下記の具体的知見を集積することができた。 (1) 斬新なn型レドックス席の創出:負電荷の高密度蓄積すなわちn型ヘビードーピングが可能なレドックス席と主鎖構造を分子設計し、形成されるレドックス勾配から電荷輸送の駆動力を引き出した。(2) 電子・イオン輸送の解明:レドックス席間の電荷・物質移動過程を明らかにし、電子交換をポリマー内で長距離にわたって連続的に生起させ、可逆的・高速かつ高密度な電荷貯蔵の要件を明確にしている。(3) ヘテロ接合面のボトムアップ集積:レドックス凝縮相による電荷輸送の概念を拡張し、分子細線としての共役鎖を組込んだ複合系を含め、界面制御に基づく高度・選択輸送性を実現している。(4) 多様な電荷貯蔵形態の実証:n型ポリマーをLi負極と組合せたロッキングチェア型電荷補償による高エネルギー密度化、pnバイポーラ性に基づく極性フリーの電荷貯蔵形式、酸素極と組合せた空気二次電池、光負極を導入した光空気二次電池など、多様な蓄積形態が可能な電荷貯蔵物質として展開可能となっている。(5) 超高密度蓄電物質の創出:有機負極設計の方法論を組合せ、超高密度のエネルギー変換の例示を通して電荷貯蔵に関わる有機物性化学を開拓している。 以上を元に、本研究は当初の計画以上に進展し、次の展開につながる着実な成果集積が可能となっている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は最終年度としての成果取りまとめに向け、計画に沿って確実な知見を固めるべく展開する。具体的な方策を以下に記す。 1. ヘテロ接合面のボトムアップ集積:ヘテロ界面に配置させた色素の増感反応を活用し、接合面を光電変換場に利用した有機太陽電池を動作実証する。界面で密度高く存在するレドックス席が電荷分離の頻度因子を増加させることを明確にし、続く交換反応により電荷分離距離の増大を計る。これら基礎的追究から得られる知見を総合し、(光)電気化学反応場を構成する有機ポリマーとして具体化する。 2. 多様な電荷貯蔵形態の実証:有機負極として設計されたn型ポリマーを、カチオン電荷補償に着目して正極側に用い、より卑電位を有する金属負極と組合せ、充放電に伴いカチオンのみが極間移動するロッキングチェア型電池を試作・動作実証する。また、pnバイポーラ性を有し両性ドープ可なポリマーを用いて、正負極に関係なく極性転換できる斬新な電荷貯蔵形式を実証する。 3. 超高密度蓄電物質の創出:高い電荷貯蔵密度を与えたn型ポリマーを用いて、空気二次電池による高密度エネルギー貯蔵を計る。レドックス当重量を抑え、起電力を高めることによって重量エネルギー密度を増加させる手法で、有機物での理論限界を明確にする。ポリマーと集電極の界面に介在させた色素(D131等の有機色素やRu錯体など)を用いてポリマーを光充電し、対極でのOH-酸化により供給された電子を外部回路経由で色素再生に用いる有機・光空気二次電池を創出する。 以上の研究展開を総合して、有機ポリマーによる蓄電現象について合理的設計に基づく新物質合成とそれに適合したデバイスの提案により、エネルギー変換の高密度化に資する普遍的知見を提示する。
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次年度使用額が生じた理由 |
n型ポリマーの合成手法の確立により活物質の量合成が当初の計画以上に順調に進展したため、構造解析に必要な消耗品費等が節約できたので、学術研究助成基金助成金の一部を次年度に繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
学術研究助成基金助成金の次年度繰越分は、最終年度として効率高い成果集積を可能とするため、主に物性解析に要する消耗品(不活性ガス、測定サンプルチューブ等)費として充当する。
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