研究課題/領域番号 |
25288059
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
田實 佳郎 関西大学, システム理工学部, 教授 (00282236)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 圧電性 |
研究実績の概要 |
本研究では擬似レイリー波で駆動するソフトでサイズフリーな高分子actuatorの具現化を計ってきた.その大きな柱である真空成形法を利用した新しい圧電デバイスの実現を目指してきた.レイリー波とは媒質が上下方向に楕円を描くように振動する表面弾性波の一種である.進行方向が一致する縦波と横波が合成されてできる.このレイリー波を物質に生起するためには,垂直方向に変位する縦波と水平方向に変位する波を,両方とも同時に共振により作り,それを正確に位相を合わせ合成する必要がある.真空成形法では,加熱した高分子シートと成形体型との空間の空気を真空吸引し,シートを型に合わせ,薄肉成型体をつくる.本研究を始める以前はポリ乳酸(PLLA)を真空成形しても圧電性は発現しなかった. 当該年度では成形条件(圧力,温度,成形助剤など)を最適化し,一軸配向性を試みた.得られたたくさんの成形において,電圧信号に追随する変位を発生させ(逆圧電性),円筒圧電スピーカになるかを確認した. 実際,側面のPLLAの主軸配向方向をできるだけ揃えたPLLA円筒を真空成形を作成し,電極を付し,円筒の半径方向に圧電変位を起こすスピーカとした.成形条件の選定を進め,一軸配向を分布は広いが円筒側面で実現した.この円筒を音楽プレーヤにつなぐと,スピーカとして機能した. 更にPLLA分子量や成形条件を,作成した成形体の振動を最適化し,わずかではあるが,成形体に擬似レイリー波を発生させることができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題は最終年度にL型ポリ乳酸(PLLA)を用いた擬似レイリー波を駆動力とする高分子らしいactuator素子を実現するためにすすめている. 目標にしていた①PLLAの高圧電化は未達成の部分ではあるが,②擬似レイリー波の安定的制御法の確立は進んだ. 超多層化については100層以上の多層化を目指してきた.交互に正と負の電極を持つ単純積層素子を考案し,その場合電界の向きは一層ごと逆であり,ずり変形の向きが異なるが,全体では同期変形とせねばならない.そこで,光学異性体に基づくD型ポリ乳酸(PDLA)を用いる.PDLAは,同一方向の電界で,PLLAと正反対の動きをする(圧電率逆符号*).この場合,二種類のフィルムの動きが同一方向になるので,圧電性発現に必須な延伸操作と電極付与が連続工程可能な共押出法の利用を進めた.しかしながら,電極形成が均一にならず成功にはいたっていない.一方で,界面接着を行うバッチ方式については電極用の銀ナノワイヤ技術の最適化をすすめ,100層以上の多層化実現している. 大きな目標であった高分子の特徴である物理的加工法(超多層化技術,真空成形技術)を利用し,圧電体素子としてPZTを凌駕する圧電性を実現することに目途がたった. 最終的に,この開発したPLLA素子を用いて,擬似レイリー波の安定的制御法の確立をし,①磁性材料(レアアース)を使わないモータ,②真空成型法を用いた成形体のactuator化を試作実験を行えるまでになっている. 以上のように概ね課題目標に向かい順調に進展している.
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今後の研究の推進方策 |
本課題では,らせん高分子は一方向にしかずり変位が発生しない.また共振変位は小さいが広い範囲周波数域で共振が起こる.この特徴を活かすことを目指してきた.一つの縦波共振が起きる周波数の電界を与え,この縦波共振変位に圧電ずり変位(横波)を重畳させることで,擬似的なレイリー波(二つの共振を利用する本来のレイリー波とは異なる)を発生させる.言い換えれば,共振がPZTより広い周波数域で起きるので,周波数tuningが容易であり,工業化が可能であるためその実現を目指してきた. PLLA分子量や成形条件を最適化したPLLA成形体に擬似レイリー波を安定的に発生させることを最終的に行う.現在までに得られた円筒スピーカの解析結果をもとに,ハプティクス等につながる擬似レイリー波の発生する円筒成形体の試作を実現する. 最終年度である本年度は最適な駆動制御システムを確立する.駆動力とする擬似レイリー波の安定的な発生には,縦波共振変位を一定にするように印加電圧の周波数と大きさを自動調整し,更に,この縦波共振変位の位相に圧電変位の位相を整合させる必要がある.これを二位相・振幅同時調整回路を利用して行う.この回路は極微小信号集合体であるが,ほぼ完成している. 試作品の成形体の共振点とその近傍の圧電挙動を,CCDカメラ評価系を用いて,正確に測定する.そして,擬似レイリー波発生の周波数域,縦波共振とその位相反転を定量的に解析し,最終年度に相応しいデモンストレーションが可能なシステムの完成を目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初,成功すれば効果が大きい真空成形体による疑似レイリー波は技術的に困難であるとの判断の下,実行順は下位に置いていた.実際秋口までは技術的に突破口が開けなかったが,添加材の配合比のオーダを変えて検討した結果,画期的な成果を得た. その成果を基に年度後半他の研究を止め,最適化に注力したため,回路設計等が遅れたことが原因で執行ができなかった.
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次年度使用額の使用計画 |
本年度は最終年度でもあるが.真空成型体に合わせた回路システム設計を行うことで,当初の予定の執行を行い,デモ試作品を完成する.
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