研究課題
基盤研究(B)
遺伝子に対する化学反応は、アルキル化剤などの低分子が遺伝子に反応し変異を誘導することが古くから研究されており、癌などの病気の原因になることが知られている。一方で遺伝子に対するアルキル化反応は、抗ガン剤のメカニズムとしても知られており、シスプラチンなどが臨床応用されているが、標的遺伝子に対する選択性がないことが問題とされている。遺伝子に対して選択的にアルキル化する方法論の開発は、副作用のない抗ガン剤になる可能性を持つ。本申請研究では、標的遺伝子に1塩基欠失部位を持つオリゴあるいはペプチド核酸を加えることで形成される疎水性空間において部位特異的にアルキル化する低分子プローブの開発を目指す。これらのプローブの開発は選択的な新規遺伝子発現制御の方法論として展開できると期待される。今年度はまず標的1本鎖DNAに対しAP-サイトを持つオリゴDNAを用いて配列選択的に疎水空間を形成させ、その部位における特異的化学修飾法の開発を検討した。その方法論として、AP-サイトの相補的な位置にある塩基に対し水素結合形成により活性化され選択的にアルキル化反応するプローブを設計した。具体的には既に開発している反応性塩基として2-アミノ-6-ビニルプリンを用い、2本鎖DNAに対して親和性を持つペンタペプチドを導入したプローブを合成することとした。まず2本鎖DNAのAATT配列のマイナーグルーブに結合するPRGRP導入したプローブを合成し、塩基欠失部位を持つ2本鎖DNAとの反応を検討した。その結果、塩基欠損部位の向かいのチミンに対して選択的に反応することがわかった。さらにより2本鎖DNAに対して親和性が高いと考えられるペンタアルギニンを導入したプローブを合成し、同様の方法で反応性を評価した。その結果、中性条件下、24時間後、約60%の収率で塩基欠損部位の向かいのチミンに対して選択的に反応することがわかった。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画では独自に開発した種々の架橋反応性核酸塩基に2本鎖DNAに対して親和性を持つペンタペプチドを導入したプローブの合成を計画していた。しかし昨年度の検討において、親水性を向上する目的で導入したポリエチレングリコールを持つプローブではほとんど反応性を示さなかったことから、合成したプローブの反応性が2本鎖DNAに対して親和性を持つ部分の構造によって大きく異なることがわかった。この結果に基づき、架橋反応性核酸塩基は2-アミノ-6-ビニルプリンに固定し、2本鎖DNAに対して親和性を持つ部分の構造について検討することとした。その結果、2本鎖DNAに対してより高い親和性を持つペンタアルギニンを導入したプローブが、標的チミンに対して効率的に反応することがわかった。さらにいずれのプローブもフルマッチの2本鎖に対してはまったく反応しないこともわかった。一方、ペンタアルギニンを持つプローブは、反応性は高いものの1本鎖DNAに対しても反応することがわかった。この結果は高いカチオン性を持つプローブが1本鎖DNAに対しても結合し、反応点である2-アミノ-6-ビニルプリンが1本鎖DNAに対しても接近したため反応が進行したものと考えている。これらの結果は、プローブの接近効果により反応が加速されることを示すものであり、本研究の概念を確立できたと考えている。
昨年度の検討からペンタペプチドを導入したプローブでは1本鎖DNAに対しても反応することがわかった。そこで今年度は2本鎖DNAに対する選択性を向上させる方法論として、インターカレーターとしてアクリジンを、マイナーグルーブバインダーとしてヘキストを導入したプローブを設計・合成し、その反応性を検討する。さらに反応性塩基とDNAに対して親和性を持つグループとを繋ぐスペーサーの長さなどを検討し、より高い反応性を持つ最適な機能性リンカーの構造を検討する。さらに得られた高い反応性を持つ低分子プローブを用いて得られた反応生成物の構造について詳細に解析を行う。その結果をもとにさらに新しい低分子プローブの設計についても検討を行う。また反応性が高いリンカー構造を用いて標的塩基を拡大した低分子プローブの開発をめざし、反応性塩基部位の構造としてピリミジン誘導体についても検討する。これらの方法論を用いた生化学的な応用についても検討する。具体的には反応性が高い低分子プローブを用いてDNAに対して選択的にアルキル化反応を誘導しそれらを用いて転写阻害が起こるかどうかについて検討する。またこれらの低分子プローブを用いてmRNAに対する反応について検討する。mRNAに対してアルキル化反応が進行した場合にはこれらを用いて翻訳阻害、さらにはmiRNAの結合阻害による蛋白質発現の活性化などについて検討を行う。さらにこれらの方法論の新しい展開として2本鎖DNAを標的とした選択的化学反応への適用について検討する。具体的には2本鎖DNAにダブルインベージョンするPNAを用いて、2本鎖DNAに1本鎖部分を形成させ、その部位に対する選択的アルキル化反応について検討する。以上のように本年度は昨年度までに確立した遺伝子の疎水空間における選択的化学反応の概念のさらなる展開を目指して研究を進めていく。
当初、計画では研究を補助してくれる方への謝金を予定していたが、結果的に人材が見つからなかったため、人件費及び謝金に使用する予定であった研究費を使用しなかった。また旅費に関しても研究発表を予定したが、今回、研究発表の場所が仙台であり、旅費に当初予定していた金額がかからなかったためそれらの金額が次年度への繰り越しとなった。昨年度、繰り越した金額は本年度国際学会にて研究発表をする予定であるため、その旅費などに使用する予定である。さらに本年度は研究を効率的にすすめるために、データー整理などを手伝っていただく方への謝金に使用したいと考えている。
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