研究課題/領域番号 |
25288073
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
永次 史 東北大学, 多元物質科学研究所, 教授 (90208025)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | アルキル化反応 / 塩基欠損部位 / 核酸高次構造 / 疎水空間 / 核酸 |
研究実績の概要 |
遺伝子に対する化学反応は、アルキル化剤などの低分子が遺伝子に反応し変異を誘導することが古くから研究されており、癌などの病気の原因になることが知られている。一方で遺伝子に対するアルキル化反応は、抗ガン剤のメカニズムとしても知られており、シスプラチンなどが臨床応用されているが、標的遺伝子に対する選択性がないことが問題とされている。遺伝子に対して選択的にアルキル化する方法論の開発は、副作用のない抗ガン剤になる可能性を持つ。本申請研究では、標的遺伝子に1塩基欠失部位を持つオリゴあるいはペプチド核酸を加えることで形成される疎水性空間において部位特異的にアルキル化する低分子プローブの開発を目指す。これらのプローブの開発は選択的な新規遺伝子発現制御の方法論として展開できると期待される。 今年度はまず標的1本鎖DNAに対してAP-サイトを持つオリゴDNAを用いて配列選択的に疎水空間を形成させ、その部位における特異的化学修飾法の開発を検討した。その方法論として、AP-サイトの相補的な位置にある塩基に対して水素結合形成により活性化され選択的にアルキル化反応するプローブを設計した。昨年度までの検討においてペンタアルギニンを有するプローブが反応性は高いものの、1本鎖に反応することから、今年度は2本鎖に対して親和性を持つアクリジン及びヘキストを導入したプローブを合成し、その反応性を評価した。その結果いずれも塩基欠損部位の向かいのチミンに対して選択的に反応すること、1本鎖には反応せず塩基欠損部位をも持つ2本鎖DNAに対し選択的に反応することがわかった。さらに反応したDNAをテンプレートとしてDNAポリメラーゼによるプライマー伸長反応を検討したところ、いずれの場合にも反応点であるチミンのところで、伸長反応が阻害されることもわかった。さらにインベージョン能を持つ擬相補的PNAの合成を達成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度、計画していた2つの分子プローブとして、ヘキストを持つプローブ及びアクリジンを持つプローブの合成に成功した。これらのプローブの反応性を検討したところ、選択性及び効率とも非常に高いブローブの開発に成功した。ヘキストを持つ反応性プローブについては、その反応性がヘキストの結合部位であるAATT配列と反応点である塩基欠損部位のチミンとの距離に依存することもわかった。この結果は、当初の設計どおりに、ヘキスト部分が2本鎖DNAに結合し、塩基欠損部位の向かいのチミンに対して反応性塩基2-AVPが水素結合形成することで反応が進行したことを示していると考えている。またこれらのプローブが反応した位置で、DNAの伸長反応が止まることもわかった。これらの結果は当初、予期していなかったことであり、これらのプローブを今後検討していくにあたり、非常に有用な性質であると考えている。さらに予備的ではあるが、反応性塩基側の構造についてもいくつか検討した。その結果、非常に高い反応性を持つプローブの開発、さらには反応後に機能性分子を導入可能なプローブの合成にも成功した。これらの研究の進展は当初予定していた計画よりも早いと考えられる。本研究で目標としていた、疎水空間の一つである塩基欠損部位での選択的アルキル化反応を誘導するプローブは開発できたものと考えている。さらに2本鎖DNAを標的としたアルキル化反応の検討に必要な擬相補的ぺプチド核酸の合成にも成功したので、これを用いて今後は検討を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までにDNAの疎水空間の一つである塩基欠損部位における選択的アルキル化反応するプローブ開発に成功した。本年度は2本鎖DNAに対してアルキル化反応するプローブの開発及び細胞内への適用について検討する。まず昨年度までに合成した低分子プローブと擬相補的PNAを用いて2本鎖DNAに対する反応性を評価する。PNA-DNAの2本鎖はDNAの2本鎖とは構造が異なるため、この2本鎖に結合する部位の構造の検討が必要となると考えられる。インターカレーターなどの低分子に反応性部位である2-AVPを導入したプローブを種々合成し、その反応性について検討を行う予定である。さらに昨年度までに開発したプローブを用いて細胞内における遺伝子発現制御について検討する。具体的にはヘキストを導入した2-AVPプローブを細胞内への適用し、その細胞内局在、さらにはその遺伝子発現制御について検討を行う。
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