研究課題/領域番号 |
25288074
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
関根 光雄 東京工業大学, 生命理工学研究科, 教授 (40111679)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 筋ジストロフィー / ホスホロチオエートRNA / 2'-O-MCE-RNA / 酵素耐性 / エキソンスキッピング / 2,6-ジアミノプリン / (ピロール-2-イル)カルボニル基 / 塩基対形成能 |
研究概要 |
本研究は、筋ジストロフィーの新規人工核酸医薬を開発するものである。すなわち、この病気の原因となっているジストロフィンのmRNA前駆体のエキソン部位に強力にかつ選択的に結合できる塩基対結合能と塩基識別能を飛躍的に強化した人工塩基と酵素耐性に優れた修飾基を導入した新規2′-O-修飾RNAやモルホリノ核酸の合成を検討し、これらの人工核酸の治癒効果をin vivo実験で調べ、新規核酸医薬の創成のための基礎研究を実施するものである。まず、塩基対形成能を飛躍的に向上させる目的で、アデニン塩基の代わりに、2,6-ジアミノプリン塩基を選び、このものを含む2'-O-MCE-RNAを合成することを検討した。塩基部位を保護することなく2'-水酸基へマイケル付加反応を経由してMCE基を導入でき、モノマーユニットも収率よく合成することができた。このモノマーを使ってこの修飾塩基を含む2'-O-MCE-RNAのホスホロチオエート体を合成し、そのエキソンスッキッピング活性を調べたところ、活性が低下していることが判明した。これは、細胞内デアミナーゼによるG塩基への変換が起こったためと思われる。一方、U塩基の代わりにT塩基を導入した2'-O-MCE-RNAの30量のホスホロチオエート体の方が、より強いエキソンスッキッピング活性を示した。3'-末端に3'-3'インターヌクレオチド結合でチミジンを導入したものが顕著なヌクレアーゼ耐性を示すことがわかった。また、3'-末端にピリミジン塩基を配置する場合がプリン塩基を配置する場合より2倍程度の耐性能をもつことが明らかになった。C塩基のG塩基との塩基対形成能の向上のため、(ピロール-2-イル)カルボニル基を導入したDNAオリゴマーをまず合成し、その相補的DNAオリゴマーとの結合能を評価したところ、結合能の改善が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、s2U基の強いスタッキング相互作用に着眼し、この修飾塩基をRNAに導入することを詳細に検討した結果、相補的なRNA鎖に対する結合能がかなり向上し、エキソンスキッピング活性も改善されることを見いだした。これは当初の目標を達成したものと評価できる。さらに、このウラシル塩基と2-チオウラシル基の5位にメチル基を導入したT塩基を導入してエキソンスキッピング活性について検討したが、この単純なメチル基がエキソンスキッピング活性を向上させることがわかった。一方、G-C塩基対形成をより強くするために、4つの水素結合が可能な人工修飾塩基としてC塩基のアミノ基にピロール-2-イルカルボニル基を導入したDNAを合成し、その相補的なDNA鎖に対する結合能を評価した。その結果、未修飾のG-C塩基対よりも、塩基対形成能力が向上することを見いだした。また、2、6-ジアミノアデニンをA塩基の代わりに用いてRNAのU塩基に対してより強固な塩基対形成を構築するため、この人工塩基を2'-O-MCE-RNAホスホロチオエートに組み込んだが、エキソンスキッピング活性は塩基部無修飾のものよりも弱かった。一方、2'-O-MCE-RNAホスホロチオエートの3’末端部位にどのような修飾が最もよいか、2量体レベルで細胞内加水分解酵素を用いて詳細に検討したところ、ピリミジン塩基が3’ー末端に配置されるとプリン塩基を配置するよりも蛇毒ジエステラーゼに対して2倍程度安定性が向上し、Tを3'-3'リン酸ジエステル結合様式で結合させると、さらに安定性が向上することも見いだした。2'-O-MCE-リボヌクレオシドの原料合成の際、使うアクリル酸アルキルによるマイケル付加反応で、t-BuOHに塩化メチレンを溶媒として加えていくと、エステル交換反応が優先的におこる非常に興味深い新しい反応をみいだすことができた。
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今後の研究の推進方策 |
まず、2-チオウラシル基とチミン塩基のそれぞれのよさを合わせた2-チオチミン塩基を2'-O-MCE-RNAホスホロチオエートに導入することを詳細に検討する。また、メチル基の代わりにプロピニル基の導入も併せて検討する。 4本の水素結合が可能な人工塩基を新たに設計して、その合成法も検討し、それを含んだ2'-O-MCE-RNAホスホロチオエートを合成し、活性を測る。デアミナーゼによる酵素反応の基質にならなく、かつウラシル塩基と強く結合できる人工塩基として2,6-ジアミノプリンの6位のアミノ基にメチル基を導入したものをDNAオリゴマーに導入して、相補鎖との結合能が向上できるか確かめる。その後、2'-O-MCE-RNAホスホロチオエートに組み込むことを検討する。 これまで、細胞内加水分解酵素に対して耐性能を付与させるために、工夫してきた塩基配列の並び方とTのインバーティッドタイプの3’-末端付加などを総合的に組み入れて、修飾塩基とも組み合わせて最善の人工核酸の構築を図る予定である。これらの研究を基盤として、モルホリノ核酸にも修飾塩基を導入したものの合成も検討し、その応用が可能であるかも調べる。 最後に、G塩基の修飾も検討し、C塩基に対して、さらに強く結合できる新規修飾グアニン塩基の創成も図っていく予定である。また、これらの人工修飾核酸分子が、標的RNAときちんと結合し、エキソンスキッピングを効率よく誘起させることができるか検討する。また、モレキュラーダイナミックスによるスパコンを用いる分子シミュレーションを行い、この人工修飾RNAのホスホロチオエート体の動的挙動についても解析し、今後の分子設計にフィードバックし、よりよいものを開発していく予定である。定年後の平成27年度の研究計画については、まだ定年後の研究が確定していないため、本研究を継続していけるか現時点では未定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究で合成を予定していた12種類の2'-O-MCE-RNAホスホロチオエートのオリゴマーのうち、9種類は先に合成が完了したため、その安定性や溶解度などの化学的性質および相補鎖と形成される2重鎖の熱融解温度やUV吸収スペクトル、CDスペクトル物理学的諸性質はじめ、MDX52モデルマウスを用いるin vitro実験を先行して実施し、その完結に平成25年度末までかかってしまった。したがって、残りの3種類の2'-O-MCE-RNAホスホロチオエートのオリゴマーについては、次年度のできるだけ早い時期(4、5月中)に合成を完了させ、動物実験を実施できるように、計画を変更した。 残りの3種類の2'-O-MCE-RNAホスホロチオエートのオリゴマーの合成をできるだけ、早く完結させ、この修飾RNAの物性値を収集し、相補鎖RNAオリゴマーとの2重鎖の熱融解温度を計測し、動物実験によって得られるエキソンスキッピング活性について、すでに得られた他の2'-O-MCE-RNAホスホロチオエートのオリゴマーのデータと比較し、その有効性について評価する。
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