本研究の目的は、部品集積法による中分子設計法に立脚し、K-Rasたんぱく質間相互作用阻害剤ならびに14-3-3たんぱく質間相互作用の分子プローブを創出することにある。これらの合成化合物は、K-Ras変異由来難治性がんに対する薬剤開発、ならびに14-3-3たんぱく質が制御するリン酸化信号伝達系の解明に寄与すると期待される。今年度は、K-Ras脂質修飾を担う2種類の酵素について、遺伝子組換えたんぱく質として発現・精製し、蛍光標識基質ペプチドを用いた阻害活性評価系を立ち上げ、合成化合物の阻害活性評価を行った。その結果、中分子阻害剤は2種類の酵素に対して良好な阻害活性を示すことを明らかにした。また、K-Ras変異型すい臓がん細胞を中分子阻害剤で処理し、K-Rasを共焦点蛍光顕微鏡で観察した結果、K-Rasの膜局在化が顕著に抑制され、細胞質への移行が起こり、K-Rasの脂質修飾が抑制されることが裏付けられた。さらに、MAPK信号伝達系下流たんぱく質のリン酸化が阻害される結果も得られ、中分子阻害剤によってK-Rasが調節する細胞増殖信号系が阻害されることを明らかにできた。現在、ヌードマウスを用いた動物実験への移行を準備中である。一方、K-Ras翻訳後修飾酵素阻害剤の代謝安定性の向上を図る目的で、大幅な化合物の構造改変と各種誘導体合成を行った。これら新規化合物は、従来の阻害剤に匹敵する阻害活性を持つことが判明した。14-3-3たんぱく質間相互作用プローブについては、天然物フシコクシンと光親和性官能基であるジアジリン、ならびに反応性スルホンエステルを連結した化合物の合成を完了した。
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