研究課題/領域番号 |
25288077
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
菊池 純一 奈良先端科学技術大学院大学, 物質創成科学研究科, 教授 (90153056)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 人工細胞膜 / セラソーム / 分子通信 / 情報伝達 / 分子認識 |
研究実績の概要 |
本研究では、生物が分子と電子の両者を情報キャリアに用いて優れた情報伝達を達成していることに鑑み、これまで我々が推進してきた分子を情報キャリアとする人工の情報処理システム、いわゆる「分子通信システム」において、分子情報と電子情報の相互変換が可能なインターフェースを人工細胞膜で構築し、高次情報伝達系を創出することを目指している。平成27年度は、以下の成果が得られた。 1.分子受信機を装着した分子通信インターフェースの機能向上: 分子通信インターフェースを構成する人工細胞膜として、新規のセラソームを開発した。具体的には、セラソーム形成脂質の主鎖に酸解離性のアミノ酸であるアスパラギン酸あるいはリジンを組み込んだ2種類の脂質分子を合成し、これらが構造安定性に優れたセラソームを形成すること、水中のpH変化に応答して分子認識能を制御できることを明らかにした。さらに、レドックス分子としての亜鉛ポルフィリンや疎水性ビタミンB12誘導体を組織化したセラソームを電極上に固定化した分子通信インターフェースを作製し、分子情報を識別して電子情報に効率よく変換できることを示した。 2.分子送信機から分子受信機への分子カプセルによる情報伝搬: 人工細胞膜を用いて分子送信機から分子受信機への分子カプセル伝搬を達成するために必要な、人工細胞膜の分裂と融合を制御する機能因子を探索した。その結果、非二分子膜形成脂質が関与する膜の分裂と融合には、膜の相転移ならびに相分離挙動が深く関与していることが示唆された。また、分子カプセルとしてのセラソームをガラス基板上に固定化した分子通信インターフェースを用いることで、DNAの分子情報を分子受信機としての神経細胞に効率よく伝搬させて、遺伝子情報の復号化を行ってタンパク質を発現させる分子通信システムを構築した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度に計画していた、分子受信機を装着した分子通信インターフェースの機能向上に関しては、分子受信機を構成する人工細胞膜としての新規セラソームを開発し、それを用いて作製した分子通信インターフェースが分子情報から電子情報への変換を選択的かつ効率的に行えることを明らかにした。さらに、分子送信機と分子受信機間の分子カプセルによる分子情報伝搬に関しても、セラソームを分子カプセルに用いることで、遺伝子情報を分子受信機としての神経細胞へ高効率で伝搬できることを示した。以上のことから、本研究はおおむね順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、基本的には当初計画に従い、以下の2つの観点から研究を推進する。 1.分子受信機を装着した分子通信インターフェースのさらなる機能向上と情報伝達 分子受信機を構成するセラソームと機能性レドックス分子の組み合わせを種々変化させて、分子情報と電子情報の相互変換を選択的かつ高効率で行える分子通信インターフェースの創出に関する検討をさらに推進する。具体的には、機能性レドックス分子として鉄ポルフィリンあるいはビタミンB2を共同因子にもつ酵素タンパク質や、疎水性ビタミンB12誘導体等の人工酵素を用いる。これらのレドックス分子を、様々なセラソームに非共有結合的相互作用によって自己集積化したハイブリッドセラソームを作製し、それらを電極上に固定化した分子通信インターフェースについて、分子認識を反映した電気化学的触媒挙動の検討から分子/電子情報変換機能を評価する。 2.分子送信機を装着した分子通信インターフェースの作製と情報伝達 分子送信機としてのハイブリッドセラソームを電極上に固定化した分子通信インターフェースを作製し、分子情報の送信機能ならびに伝搬機能を評価する。具体的には、人工細胞膜の分子認識能が電気化学的に変化するハイブリッドセラソームを新たに開発し、入力される電子情報に依存して、分子送信機からの分子カプセルの発信制御が可能な分子通信インターフェースの創出を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度の研究は、当初計画に沿って順調に成果をあげることができたが、経費使用にあたっては、現有の消耗品等を有効に活用することで節約を行い、基金分については未使用額を次年度以降の研究経費に使用できるよう工夫した。
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次年度使用額の使用計画 |
本研究は3年目が終了したが、今後2年間継続する研究であるので、基金分の未使用経費は、次年度以降の研究成果をさらに拡張するための新たな物品購入や、研究成果を広く世界に発信するための旅費等に充てる計画である。
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