本研究では、生物が分子と電子の両者を情報キャリアに用いて優れた情報伝達を達成していることに鑑み、これまで我々が推進してきた分子を情報キャリアとする人工の情報処理システム、いわゆる「分子通信システム」において、分子情報と電子情報の相互変換が可能なインターフェースを人工細胞膜で構築し、高次情報伝達系を創出することを目指した。最終年度である平成29年度に得られた成果は以下のとおりである。 1. 分子通信システムにおける情報伝搬と情報変換の連動: 種々のレドックス分子を集積化したセラソームは、分子情報を電子情報に変換できる分子通信インターフェースの構築に有効であることを前年度までに明らかにしてきたが、疎水性ビタミンB12を集積化したセラソームの情報変換機能を更に詳細に検討し、選択的な情報変換を達成するための物理化学的因子を明らかにした。また、分子情報の伝搬とその電子情報への変換を連動させるには、ペプチド脂質とセラソーム形成脂質によるハイブリッドセラソームが有用であることを前年度に見出したが、そのハイブリッドセラソームの膜融合を伴う分子情報伝搬能と分子情報から電子情報への変換能について更なる検討を加え、ハイブリッドセラソームが分子通信インターフェースの構築に最適であることを示した。 2.分子通信と電子情報通信を組み合わせた次世代情報通信技術の開発指針の提案: パソコンや携帯電話による電子情報通信技術は日々深化発展を続けているが、これに分子通信技術を融合させることで、電子情報通信では困難な水媒体中での無配線情報処理が可能になり、生体系との双方向情報通信へと拡張できる。そのためには、分子情報の発信、伝搬、受信、変換、増幅といった個々のプロセスを動的超分子化学の手法により連携させることが重要であり、本研究はハイブリッド人工細胞膜であるセラソームを用いて、その実現の可能性を実験的に証明した。
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