炭素-炭素(C-C)結合形成反応を触媒できる人工生体触媒を創成する。具体的には、有機溶媒と熱に強いタンパク質としてリパーゼを選択し、有機触媒活性を有する含窒素複素環式カルベン(NHC)を結合させたNHC-リパーゼ複合体を創成する。前年度に、ペンタフルオロフェニル基を有するトリアゾリウム塩(NHC前駆体)とリン酸エステル(リンカー部位)が連結した化合物1を得る合成経路を確立した。NHC前駆体-リン酸エステルとCandida antarctica lipase B (CALB)を室温1時間撹拌することにより、NHC前駆体が(リン酸エステルを介して)リパーゼ活性中心に導入されたハイブリッド人工生体触媒を創成した。本年度は、合成した人工生体触媒CALB-1をToyonite-200Mに固定化し、その触媒活性をベンズアルデヒドのベンゾイン反応により調査した。トリエチルアミンを塩基として用いた時に反応が進行したため、HPLCによって生成物の光学純度を確認したところ、79% eeであった。これは1のみを用いた場合と比較して選択性が下がる結果となった。CALBに導入されたNHCはS体の生成を選択的に触媒する一方で、CALBタンパク質はS体の生成を阻害するように働いているというmismatched pairの関係であることが示唆された。また、前年度までに無溶媒でNHC触媒反応を行うと、かなり少ない触媒量でも反応が進行し、触媒的な固体-液体もしくは固体-固体変換反応が進行することも見出している。基質と触媒前駆体と無機塩基の混合物が粉末状固体であっても、それぞれの化合物の融点より低い温度で反応が進行した。本年度は引き続き、固体-固体変換反応を中心に精査した。たいていの場合、固体混合物が一旦部分的に融けたり懸濁した半固相状態を経由して反応が進行した。融点降下との関連性を示す結果が確認された。
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