バイオベース材料への期待から、木質バイオマスの化学変換により得られるフラン化合物群を原料とする高分子の研究が活発に行われている。本研究では、フランポリマーを可逆架橋することにより、実用的な材料性能と同時に、架橋の可逆性を利用した修復性や易解体性などの機能も有する付加価値の高いバイオベースポリマー材料を創製を目的としている。本年度は特に、修復性に注目して研究を行った。 可逆架橋ポリマーの修復性は、架橋の切断と再生により達成されるため、室温修復性ポリマーの報告は非常に柔軟なエラストマーやゲルに集中しており、高強度材料の修復には高温への加熱など外部刺激が必要とされている。本研究では、材料の熱物性と修復性の相関を詳細に検討することにより、高強度材料に室温自発修復性または低刺激による修復性を付与することを目指した。 まず、昨年度までに得てきた知見に基づいて、分子運動性を向上させるためのコモノマーを導入した共重合体など、様々な化学構造、架橋度の可逆架橋フランポリマーを用意した。次に、これらのポリマーの修復性の温度依存性を検討し、いずれのポリマーもガラス転移点+15℃以上の温度でおおむね良好な修復性が発揮されることを明らかにした。修復にガラス転移点以上の温度を要するということは、従来から多くの研究者に認識されてきたが、必要な最低温度を定量化する試みは初めてのものである。この結果として、ガラス転移点が室温直下の試料では、室温において10MPaを超える破断強度を持ちながら、50℃程度という穏やかな加熱で修復できることが明らかとなった。ガラス転移点に注目した材料設計により、破断強度が20MPaを超える材料を50℃加熱で修復することにも成功した。
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