研究課題/領域番号 |
25288081
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
木田 敏之 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20234297)
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研究分担者 |
明石 満 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20145460)
中野 武 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 特任教授 (00446791)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 環状オリゴ糖 / シクロデキストリン / ポリ塩化ビフェニル(PCB) / トランス脂肪酸 / 油 / チャンネル型集合体 |
研究実績の概要 |
オイル中の有害脂肪酸エステルを高効率除去できるCD誘導体の開発を目的として、まず、非極性溶媒中でのCD誘導体と長鎖脂肪酸エステルとの包接錯体形成について検討した。CD誘導体にはα-CDの6位の水酸基をtert-ブチルジメチルシリル化したTBDMS-α-CDならびに2位と6位の水酸基をメチル化した2,6-DiMe-α-CDを、脂肪酸エステルにはエライジン酸メチル (トランス脂肪酸エステル)とオレイン酸メチル (シス脂肪酸エステル)を用いた。溶媒に重ベンゼンを用いて、CD誘導体と各脂肪酸エステルとの会合定数をNMR滴定法により求めたところ、TBDMS-α-CDを用いた時は、シス体とトランス体に対する包接能の顕著な差は観測されなかったが、2,6-DiMe-α-CDを用いた時、シス体よりもトランス体に対して高い包接能が観測された。 次に、これらのα-CD誘導体を吸着剤に用いて、ヘキサンやシクロヘキサン中でのトランスならびにシス脂肪鎖エステルに対する吸着能を検討した。TBDMS-α-CDはトランスならびにシス脂肪酸エステルに対しほぼ同等の吸着能を示したが、2,6-DiMe-α-CDは顕著なトランス選択的吸着能を示した。特に、シクロヘキサン中、40℃の吸着条件下で、シス脂肪酸エステルに対し9倍以上のトランス脂肪酸エステル選択性を示すことがわかった。また、2,6-DiMe-α-CDのhead-to-head型二量体を吸着剤に用いた時、シスならびにトランス脂肪酸エステルに対する吸着能は大きく増加したが、トランス選択性が消失した。一方、2,6-DiMe-α-CDのhead-to-tail型のチャンネル状集合体を用いた時、高いトランス選択性が得られた。この2,6-DiMe-α-CDのチャンネル状集合体を用いることで、大豆油中のトランス脂肪酸エステルの選択的除去に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
α-CDの6位の水酸基をtert-ブチルジメチルシリル化したTBDMS-α-CDと、2位と6位の水酸基をメチル化した2,6-DiMe-α-CDを用いて、重ベンゼン中、エライジン酸メチル (トランス脂肪酸エステル)あるいはオレイン酸メチル (シス脂肪酸エステル) との会合定数を求めたところ、TBDMS-α-CDではトランスとシス間での差はほとんど観測されなかったが、2,6-DiMe-α-CDで顕著なトランス選択性が観測された。また、ヘキサン中のエライジン酸メチルとオレイン酸メチルに対するTBDMS-α-CDと2,6-DiMe-α-CDの吸着能を比較すると、上記のベンゼン溶液中の場合と同様に、TBDMS-α-CDではトランス選択性はほとんど観測されなかったが、2,6-DiMe-α-CDで顕著なトランス選択性が観測された。このことから、2,6-DiMe-α-CDが非極性場で形成する包接空間がトランス体選択的吸着に効果的に働いていると考えられる。 また、2,6-DiMe-α-CDのhead-to-head型二量体またはhead-to-tail型チャンネル状集合体を用いた吸着実験から、head-to-tail型に配列した2,6-DiMe-α-CDの集合体がトランス脂肪酸エステル選択的吸着に関与していることを明らかにした。また、2,6-DiMe-α-CDのhead-to-tail型チャンネル状集合体を用いることで、大豆油中のトランス脂肪酸エステルの選択的除去にも成功した。このように、オイルや非極性溶媒中のトランス脂肪酸エステルに対して選択的包接能(吸着能)を示すシクロデキストリン集合体の開発に成功するとともに、トランス体選択性発現のメカニズムについても明らかにした。以上のことから、当初の計画通り順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
1.オイル中のPCBを高効率除去・回収できる吸着剤の開発 平成25年度に開発した吸着剤(CD誘導体ならびにCDポリマー)の再利用可能性について検証する。まず、PCBが吸着したCD誘導体ならびにCDポリマーをアセトン等の溶剤で洗浄し、PCB回収率をガスクロマトグラフ質量分析計等を用いて算出する。この洗浄操作後に得られた吸着剤を用いて、オイル中のPCBに対する吸着能を再評価する。さらに、繰り返し利用に対する吸着剤の耐性についても検討する。以上得られた結果を吸着剤の分子設計にフィードバックさせて高性能PCB吸着剤を開発する。 2.食用油中の有害脂肪酸エステルを高効率除去・回収できる吸着剤の開発 トランス脂肪酸エステル吸着後のCD吸着剤からトランス脂肪酸を効率的に回収できる条件を検討する。また、ここで得られたCD吸着剤の再利用可能性について検証する。トランス脂肪酸エステルが吸着したCD誘導体をエタノールやヘキサンなどの溶剤で洗浄し、そこからのトランス脂肪酸エステル回収率をガスクロマトグラフや高速液体クロマトグラフを用いて算出する。トランス脂肪酸エステルを洗浄除去した後に得られた吸着剤を用いて、植物油中のトランス脂肪酸エステルに対する吸着能を再評価する。これらの操作を繰り返し、吸着剤の再利用可能性について検証する。以上得られた結果を吸着剤の分子設計にフィードバックさせることで有害脂肪酸エステルに対する高性能吸着剤を開発する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究を進めていく上で必要に応じて研究費を執行したために、当初の見込み額と執行金額は異なった。
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次年度使用額の使用計画 |
研究計画に変更はなく、前年度の研究費を含め、当初予定通りの計画を進めていく。
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