研究課題/領域番号 |
25288088
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
岸川 圭希 千葉大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40241939)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 液晶 / 強誘電性 / 分子配列 / ポリマー / ナノテクノロジー |
研究実績の概要 |
(1)重合性ウレア化合物N,N’-bis(3,4,5-tri(bromoalkyloxy)phenyl)ureaのスイッチング挙動の調査およびSHG測定を行った。本化合物は、非常に焦げやすく、レーザー光強度を絞ることができる実験(電圧印加によるSHG強度の増減やSHG強度の保持)は再現性良くできるが、分極反転を確認するSHG干渉の実験では、レーザー強度を上げざるを得なく、サンプルの変性で再現性が取れなかった。さらにSHG観測の条件を検討する必要がある。この化合物をガラス基板上に塗布し薄膜とし、液晶状態で部分的に直流電圧印加したところ、全範囲で重合が進行するとともに、印加部には選択的に蛍光色素溶液中の蛍光色素が吸着することが確認できた。また、電圧印加部では親水性が変化することが確認された。 (2)ビスウレア1,9-bis((3,4,5-trialkyloxyphenyl)carbonylamino)nonaneの液晶性調査、スイッチング挙動、SHG測定を行った。この化合物はクロロホルムで再結晶した際、ゲル化が起こり、分子間水素結合ネットワークが溶液中でも形成されやすいことが判明した。柱状液晶相において、三角波電圧印加したところ分極反転ピークは観測されなかったが、直流電圧印加ではSHG活性があり、電圧ON-OFFでSHG強度の増減が確認され、電圧除去後もSHG強度が保持されるなど、強誘電性の確認ができた。ただ、このビスウレア化合物においては、反転できる領域と反転できない領域があると考えられる。 (3)超分子ウレアN,N’-bis(4-pyridyl)urea-tri(10-acryloyloxyalkyl)benzoic acid(1:2錯体)を合成し評価を行った。柱状液晶相が発現し、電圧を印加されたが、分極反転ピークは観測できなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)重合性ウレア化合物N,N’-bis(3,4,5-tri(bromoalkyloxy)phenyl)ureaをガラス基板上で薄膜化することに成功し、液晶温度に保つことにより、ポリマーシートにすることに成功した。この際、ポリマーシートの一部に電圧(5kV)を印加することにより、印加部に分極を発生させ、蛍光色素を選択的に吸着させ、分極部を可視化できることを確認した。また、分極部上においた水滴の接触角は変化しなかったが、ガラス基板上のポリマーシートに水滴をのせ、傾斜角と水滴の移動落下の実験において、非電圧印加シートに比べ、電圧印加シートは水滴の保持限界の角度が大きく増加した。カラムの配向状態が変化することにより、水分子との相互作用が大きくなることが確認できた。このように、電圧印加による制御により、ポリマーシートの表面物性を制御することが可能になった。 (2)ビスウレア1,9-bis((3,4,5-trialkyloxyphenyl)carbonylamino)nonaneの合成に成功し、柱状液晶相の発現を観察することができた。2つのウレア基を一つの分子に導入することによって、電圧印加した液晶状態の試料の一部が電圧除去後でもSHGを失わないことから、この分子設計により、柱状液晶相が発現するとともに、期待通り、分極反転の閾値が向上し、強誘電性の安定化が示された。 (3)超分子ウレアN,N’-bis(4-pyridyl)urea-tri(10-acryloyloxyalkyl)benzoic acid(1:2錯体)は、柱状液晶相を発現したが、交流電圧印加では分極反転が遅いため、分極反転は観測されなかった。これは、中心部のウレア分子の分子間水素結合が強すぎることに由来しているものと考えられる。分極状態反転についての最終的な判断は、今後、SHG測定により行う。 以上の(1)(2)(3)より、本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
(1)重合性ウレア化合物として、体積収縮の少ないないNN'-bis(3,4,5-tri(acryloyloxyalkyloxy)phenylureaを合成し、液晶状態での薄膜ポリマーシートの作製を行う。液晶状態でこのポリマーシートの一部に電圧印加することにより、印加部に分極を発生させ、蛍光色素を作用にさせ、分極部の可視化を行う。また、重合性の蛍光色素を合成し、シート上に並べたうえでその重合を試みる。 (2)ビスウレア1,9-bis((3,4,5-trialkyloxyphenyl)carbonylamino)nonaneでは、期待通り、分極反転の閾値が向上し、強誘電性を示したが、カラム間のネットワーク化がカラムごとの分極反転を阻害した。これを妨げるため、中央部スペーサーをフレキシブルなアルキル鎖でなく、ベンゼン骨格を含む強固なスペーサーとし、カラム間でネットワークができないようにする。 (3)超分子ウレアN,N'-bis(4-pyridyl)urea-tri(10-acryloyloxyalkyl)benzoic acid(1:2錯体)については、SHG測定を行っていないが、分極反転が遅いため、三角波電圧印加において分極反転は観測されなかった。これは、中心部のウレア分子の分子間水素結合が強すぎることに由来しているものと考えられるが、直流電圧印加では、反転する可能性もあるので、SHG測定で分極反転の状態を測定する必要がある。また、中央部のウレア分子をN,N'-bis(4-pyridylmethyloxyphenyl)ureaとして、ウレア部分の反転運動が起こりやすくしたものも合成し、評価を試みる。 (4)これまでに述べてきたウレア誘導体に混合しても柱状相の発現を阻害しない化合物において、ある程度SHG強度が大きな分子を設計合成して、赤外レーザーの強度を相対的に低下させることを狙う。
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