研究課題/領域番号 |
25288091
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岡本 敏宏 東京大学, 新領域創成科学研究科, 准教授 (80469931)
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研究分担者 |
三津井 親彦 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特任助教 (00615346)
竹谷 純一 東京大学, 新領域創成科学研究科, 教授 (20371289)
植村 隆文 大阪大学, 産業科学研究所, 特任准教授 (30448097)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | パイ電子系材料 / 有機半導体 / 高移動度 / 高熱耐久性 / 塗布プロセス |
研究実績の概要 |
本年度は,初年度に合成が完了した各種カルコゲン元素架橋屈曲型パイ電子コア誘導体の基礎物性評価,集合体構造解析,トランジスタによるキャリア移動度評価を行い,カルコゲン元素が及ぼす電子的および幾何学的効果の検証を行った.カルコゲン元素の中で最も小さな原子半径を持つ酸素で架橋された誘導体(酸素架橋体)は,導入するアルキル鎖の長さや位置に関わらず,すべて二次元伝導に有利な集合体構造を形成することがわかった.これに対し,硫黄架橋体の場合,アルキル鎖の長さや位置により,伝導に不利な一次元構造や伝導に有利な二次元構造やこれら2つの間の構造を形成し,導入する置換基の影響を受けやすく,構造制御が可能なパイ電子コアであることがわかった.さらに大きいセレン元素を導入したセレン架橋体は,セレン元素の効果により,非常に興味深いことに,熱力学的に安定なパイコアの重なりが小さい伝導に不利な一次元構造と,速度論的に安定な伝導に有利な二次元構造の2つの集合体構造を形成することを明らかとした.これら2つの構造は熱,溶媒,成膜プロセスにより構造制御が可能である.各種カルコゲン元素架橋誘導体の特徴として,硫黄架橋体は10 cm2/Vsを越える高移動度と高温結晶相安定性(高デバイス熱耐久性),酸素架橋体は硫黄架橋体よりも一桁低いが,1 cm2/Vsを越える良好な移動度に加えて,軽元素効果により高い固体発光性,セレン架橋体は硫黄架橋体とほぼ同等の高移動度に加えて,外部刺激応答性という新奇な機能を有する有機半導体材料であることを明らかとした。これら一連のデータは,塗布法,塗布溶媒,塗布温度,塗布濃度,塗布用基板などの包括的なデバイス最適化により達成されたものである.次年度以降は,もう一ランク上の性能向上を目指し,側鎖間の積極的な相互作用を用いた高性能化アプローチや高分子有機半導体材料への検討を進める予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2年度の研究実施計画は,①屈曲型分子群の塗布膜トランジスタ評価とデバイスの最適化,②側鎖間の静電的相互作用による高性能化である.①については,当初の計画以上に大幅に進展し,屈曲型分子群におけるカルコゲン元素の有用性を示す包括的な結果を得ることができた.②については,2年度および3年度の継続研究であるが,初年度から2年度の期間で開発に成功した汎用性の高い合成手法を用いることで,新しいコンセプトに基づく各種誘導体の合成は完了しており、3年度の研究を円滑に進める準備は出来ており,順調に研究が進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
初年度は,主にカルコゲン元素架橋屈曲型パイ電子系コアの汎用的合成法の確立と各種誘導化を行い,2年度は,屈曲型パイ電子系コア導入するカルコゲン元素の効果を検証すべく,基礎物性評価,集合体構造解析,デバイス評価を系統的に行い,屈曲型パイ電子系コア特有の有機半導体材料としてのポテンシャルを示した.3年度は初年度と2年度で確立した汎用的合成法を用いて,2年度から合成を進めている新しいコンセプトに基づくさらに高性能な有機半導体材料の開発を加速させる.また,新しい展開として屈曲型パイ電子系コアに基づく新奇な高分子系有機半導体材料への展開も計る.
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