研究課題/領域番号 |
25288095
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
富永 洋一 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (30323786)
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研究分担者 |
中野 幸司 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (70345099)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 固体高分子電解質 / イオニクス / 二酸化炭素 / ポリカーボネート / リチウムイオン電池 / イオン伝導性高分子 |
研究概要 |
本年度は、まず単純な構造のCO2/エポキシド共重合体を合成し、カーボネート/エーテル比率(交互性)とイオン伝導度の関係を調査した。具体的には、プロピレンオキシド(PO)を用いた交互性の異なる共重合体P(PC-PO)の合成を行った。重合用の触媒については、Coサレン触媒の他、FeおよびMnコロール錯体を用いた。エーテル結合を多く含むP(PC-PO)共重合体の合成には、特にFe錯体が触媒として優れていることが分かった。P(PC-PO)のエーテル含有量が約0.6%から70%まで5種類の共重合体を合成することに成功した。P(PC-PO)-LiTFSI(60 mol%)電解質の複素インピーダンス測定およびDSC測定の結果からは、共重合体のエーテル含有量が38%のときに最もイオン伝導度が高く、またエーテル含有量が38%および70%のときに最もガラス転移温度が低くなることが明らかになった。得られた各試料のVTFプロットからは、イオン輸送に関する活性化エネルギーEaがエーテル含有量の増加に伴い上昇し、キャリアイオン数に関係する定数Aがエーテル含有量が38%のところで極大値をとる挙動を示すことも分かった。エーテル結合部をある程度含むことによって、金属塩が解離しやすくなり、キャリアイオン数が増加する一方で、エーテル結合を多く含んでしまうことにより、解離したカチオンがエーテル酸素にトラップされやすくなり、キャリアイオン数が減少したためではないかと考えられる。 一方、市販のポリエチレンカーボネート(PEC)を用いたLiTFSI電解質の誘電緩和測定および動的粘弾性測定の予備実験を実施した。高塩濃度のPEC-LiTFSIにおける特徴的なイオン伝導度の上昇は、α緩和(セグメント運動)に関与していないイオン種が高分子鎖の絡み合いをほぐすことでセグメント運動が活性化し、速くなったセグメントがイオンと共に協同的な運動をしているために起こることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の目的である、カーボネート/エーテル比率(交互性)の異なる各種共重合体を得ることに成功し、イオン伝導度との関係を明らかにすることができた。さらに、PEC電解質の高塩濃度におけるイオン伝導度の特異性を誘電緩和測定および動的粘弾性測定から前倒しで一部解析することができた。一方で、研究代表者によって既に報告されている様々な側鎖構造のグリシジルエーテル型共重合体に関しては、本年度中に結果を示すことができなかった。今年度に得られた最適な触媒や重合条件のデータをもとに、交互性の異なる新しい共重合体の合成にも展開していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度以降は、前年度と同様に基本的には当初の研究計画書に従って進めていく予定である。これまでに得られている様々な交互性のP(PC-PO)のイオン伝導挙動を詳しく解析するとともに、グリシジルエーテル型共重合体の交互性についても検討し、同様のイオン伝導度測定を行っていく。イオン伝導度は、前年度に購入し設置したインピーダンスアナライザーおよび既設のグローブボックスを用いた複素インピーダンス法によって得られる。さらに、Li金属を用いた二極式対称セルを作製し、複素インピーダンス法と直流分極法の併用による測定法からLiイオン輸率を決定する。CO2/エポキシド共重合体型SPEの高いLiイオン輸率は、特殊なイオン溶存状態が関係していると考えられるため、ポリエーテル型SPEとの相違点を明らかにする予定である。熱分析測定については、今年度にDSCを購入予定であり、それを用いたガラス転移温度の測定、さらには既設のTG/DTAを用いた熱分解特性についても分析を進める予定である。動的粘弾性測定については、既に前年度に予備実験を前倒しで実施しており、今年度も引き続き同様の測定およびデータ解析を行っていく。具体的には、引張変形に対する応力応答を幅広い温度範囲(Tg近傍~100℃程度)で測定し、金属塩の種類や濃度変化に伴うガラス転移温度の変化との関係性を詳細に分析する。申請当初の研究計画書に記載のなかった誘電緩和測定については、前年度から既に検討を始めており、今年度も引き続き詳細測定を行っていく予定である。各種共重合体型電解質の誘電緩和スペクトルからは、今までの報告例には無い新しいイオン伝導挙動を発現することが示唆されている。従って、以降の誘電緩和測定の継続およびより詳細なデータ解析が必要不可欠であり、当初予定の熱分析や粘弾性測定の結果と組み合わせた特性の解明が重要であると考えている。
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