研究課題/領域番号 |
25288101
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
遊佐 真一 兵庫県立大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (00301432)
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研究分担者 |
横山 昌幸 東京慈恵会医科大学, 医学部, 教授 (20220577)
白石 貢一 東京慈恵会医科大学, 医学部, 講師 (40426284)
藤井 秀司 大阪工業大学, 工学部, 准教授 (70434785)
岩崎 泰彦 関西大学, 工学部, 教授 (90280990)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 高分子合成 / 自己組織化 / ナノチューブ・フラーレン / 癌 / 高分子構造・物性 |
研究実績の概要 |
本研究申請者は未修飾のフラーレンに近赤外光を照射すると、数秒以内に100℃以上の温度に到達する非常に高い光熱変換効果を示すことを見出した。この結果に基づき、表面に感温性のシェルを持ち、フラーレンを内包した水溶性コンプレックスに微弱な近赤外光を照射することで表面を疎水性に変化させ、腫瘍組織に取り込まれ易くする技術を開発することを目的とした。腫瘍組織にフラーレンコンプレックスを取り込ませた後、高強度の近赤外光の照射によりフラーレンを発熱させることで、標的とする腫瘍組織のみを熱で破壊する。このようにフラーレンを内包した感温性コンプレックスを用いることで、極めて副作用が少なく治療効果の高いがん治療システムの構築を目指す。 当初の予定では感温性のポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAM)とポリ(2-ビニルピロリドン)(PNVP)からなる二重親水性ジブロック共重合体を合成して、PNVPとフラーレンの相互作用で水中でコンプレックスを形成させて、フラーレンを水に可溶化する予定だった。またこのように形成されたコンプレックスの周囲は感温性のPNIPAMで覆われているために、温度上昇に応答してミセル間での凝集を促進すると予想される。しかし、研究を進めて行く上で、PNVPを使用しなくても親水性で生体適合性のポリ(2-メタクリロイロキシエチルホスホリルコリン)(PMPC)がフラーレンとコンプレックスを形成して、疎水性のフラーレンを水に可溶化できることを発見した。 PMPCとフラーレンが水中でどのような会合体を形成しているのかを動的・静的散乱、核磁気共鳴、赤外吸収、可視紫外吸収、透過型電子顕微鏡などを用いて調べた。さらに可視光照射により水に可溶化したフラーレンからの活性酸素の発生を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
PMPCホモポリマーを用いることにより、十分な量のフラーレンを水に可溶化できることを確認した。このときポリマー主鎖骨格のメタクリレート構造が重要な役割を果たしていることを見出した。つまりPMPCと類似の骨格を持つポリメタクリル酸を用いてフラーレンの水への可溶化を行えたが、ポリアクリル酸を用いた場合、水にフラーレンを可溶化できなかった。これらの結果からPMPCの主鎖骨格のメタクリレート基とフラーレンの疎水性相互作用が可溶化に関与していることが示唆された。しかし、ポリメタクリル酸の場合より、PMPCを用いた方が、より多くのフラーレンを水に可溶化できたので、側鎖のホスホリルコリン基もフラーレンの水への可溶化に関与していると考えられる。 さらに光照射により活性酸素を発生することを、ジカルボキシエチルアントラセンの酸化反応を利用することで確認した。フラーレンとしてC60やC70を用いた場合よりもC84を用いることで近赤外領域の光でも活性酸素を発生することを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
PMPCホモポリマーを用いてフラーレンを水に可溶化できることを確認した。今後は引き続きPMPCとフラーレンの間で形成されるコンプレックスの溶液物性を調べる。さらにPMPCと感温性ポリマーのポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAM)とのジブロック共重合体(PMPC-b-PNIPAM)を制御ラジカル重合法で合成する。合成したジブロック共重合体とフラーレンの間でコンプレックスを形成することで、感温性会合体を作製する。この感温性のコンプレックスは、水溶液の温度をPNIPAMブロックの下限臨界溶液温度(LCST)より高くすると、PNIPAM鎖の脱水和により疎水性相互作用でコンプレックス間での凝集が促進されると予想される。
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次年度使用額が生じた理由 |
フラーレンとのコンプレックス形成の過程で、予想に反し、ブロック共重合体によるフラーレンの水への可溶化が、事前準備とは異なり反応容量を上げると困難であることが判明した。研究遂行上、フラーレンの可溶化を可能とする高分子合成が不可欠であるため、研究方式を見直し、リン脂質を側鎖結合したホモポリマーを用いてフラーレンを水に可溶化する必要が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
ポリマー合成用の試薬や反応用ガラス容器に使用する予定。
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