研究課題/領域番号 |
25288107
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
平尾 一之 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (90127126)
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研究分担者 |
西 正之 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (50402962)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ナノ粒子 / 金ナノ粒子 / 無電解 / シリコン |
研究実績の概要 |
本研究では、従来のレジストを用いる露光プロセスを代替できる技術として注目を浴びている印刷エレクトロニクスを支えるインクジェット法と、近年我々が報告した、金属ナノ構造体のSi基板上での局所選択的直接成長法(以下、我々の従来法と呼ぶ)を組み合わせた次世代型の金属ナノ構造成長技術の基盤研究を行うことを目的としている。 我々の従来法の特徴は、レジスト、電解、フッ化水素酸、あるいはシランカップリング剤のいずれも使用しないことである。具体例を述べると、集束イオンビーム(FIB)を照射したシリコン(Si)基板表面に塩化金酸水溶液をスポイト等で滴下すると、FIB照射部に選択的に金ナノ粒子集合体からなる金ナノ構造体が成長する。直接成長法であるため、構成要素である金ナノ粒子の大きさや形状の自由度が高いことがもうひとつの特徴である。 同従来法における課題は、FIB照射Si基板(5 mm角)に塩化金酸水溶液をスポイトで滴下すると、同水溶液が基板一面を覆うため、基板上に複数のFIB照射部を形成しても各照射部に同じ金ナノ構造体が成長し、各照射部に異なる金ナノ構造体を成長させる自由度がないこと、FIB照射部を直径100 nm程度まで小さくした場合、金ナノ構造体の成長が速いため、照射部直径の数倍以上の大きさの金ナノ構造体が成長し、ナノ粒子間の結合を維持したままの微細化に限界があることなどである。一方、インクジェット法においても吐出液滴の直径は通常数10 μmであり、得られる構造の大きさも同程度となる。H26年度では、我々の従来法、通常のインクジェット法のどちらでも困難であった、金や銀のナノ粒子集合体からなる直径100 nm程度の構造体の局所選択的な成長を実現した。さらに、我々の従来法において未解明であった成長機構の理解においても大きな進展を見せ、同手法のさらなる応用に向けた指針を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々が開発した、金属ナノ構造体のSi基板上での局所選択的直接成長法では、自然酸化膜が局所的に取り除かれたFIB照射部においてSiからの電子供給により溶液中の金属イオンが還元される。本研究課題であるインクジェット併用法の一つの特徴は、インクジェットにより吐出される液滴の体積が非常に小さいことにより、FIB照射Siと反応する金属イオンの数を、吐出する溶液の金属イオン濃度を低くすることなく、制限できることにある。金属イオン濃度によってFIB照射部に成長する金属形態が異なるため、同特徴は重要である。当初の予定通り、金、銀の両方に対して、5 μm四方のFIB照射部において、種々の濃度のAuやAgの金属イオン含有溶液を用いて、スポイトを用いた場合の析出金属原子数を定量評価し、インクジェットから吐出される液滴中の金属イオン数やインクジェットを用いた場合の析出金属原子数と比較することで、インクジェット併用法による成長制御性を評価した。また、直径約100 nmのFIB照射部に対しても、インクジェット法とスポイト法を比較し、我々の従来法、通常のインクジェット法のどちらでも困難であった、金や銀のナノ粒子集合体からなる直径100 nm程度の構造体の局所選択的な成長を実現した。 さらに、Si基板の代わりにSiC基板を用いても、我々の従来法により局所選択的な金ナノ構造体の成長が実現できることを示し、両基板上に成長した金ナノ構造体の定量的評価等により、成長機構の理解においても大きな進展を見せ、同手法のさらなる応用に向けた指針を得た。
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今後の研究の推進方策 |
H26年度までは、我々が開発した、金属ナノ構造体のSi基板上での局所選択的直接成長法に関して、核生成過程における反応機構と、成長過程における駆動力を明らかにした。また、インクジェット併用法に関して、その制御性を評価し、我々の従来法、通常のインクジェット法のどちらでも困難であった、金や銀のナノ粒子集合体からなる直径100 nm程度の構造体の局所選択的な成長を実現した。 H27年度では、特に成長過程に焦点を絞って研究を進める。我々が開発した、金属ナノ構造体のSi基板上での局所選択的直接成長法では、自然酸化膜が局所的に取り除かれたFIB照射部においてSiからの電子供給により溶液中の金属イオンが還元される。そのため成長過程では、(1)Siの酸化度合いや、(2)金属核あるいは成長過程にある金属の大きさおよび金属表面の状態や環境が、その後の成長に影響を及ぼすことが予想される。そこで、FIB照射面積と金属ナノ構造体の成長量との関係や、金属ナノ構造成長前後でのFIB照射部およびその周辺のSiの状態変化の評価、インクジェット併用法における複数回滴下で得られる構造の評価などにより、本手法における金属ナノ構造の成長機構をより深く理解すること、およびインクジェット併用法における制御性の評価を目的とする。 また、得られた結果を取りまとめ、学会発表や論文投稿を行う。
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