集束イオンビーム(FIB)を照射したシリコン(Si)基板表面に塩化金酸水溶液や硝酸銀をスポイト等で滴下すると、FIB照射部に選択的に金や銀のナノ粒子集合体が成長する。これは、近年、我々が報告したSi基板上での局所選択的無電解法である。本研究課題では、同手法においてスポイトをインクジェットプリンターに代えることで、スポイトでは実現できない構造制御、たとえば、各FIB照射部への異なるサイズ・種類の金属ナノ構造形成や超微細な金属構造形成の実現を目指してきた。さらに、まだ不明な部分が残る金属成長機構の解明も目的としてきた。これまでにインクジェット併用法により直径100 nm程度の微細な金属構造の形成を実現し、また、FIBにより自然酸化膜が除去された箇所においてSi側の電子が溶液側に流れることで金が成長すること等を明らかにしてきた。 本年度は、インクジェットプリンターで吐出する塩化金酸溶液中での金イオンの化学的安定性、そして、FIB照射面積と金ナノ構造体の成長量の関係を主に評価した。前者については、インクジェットプリンターで吐出制御可能な溶液に関する表面張力と粘度の条件により、塩化金酸の溶媒として水の代わりにエチレングリコール水混合溶媒を用いてきた。しかし、エチレングリコールには弱いながらも還元力があるため、金イオン溶液を一定期間保管することに懸念があった。実験の結果、照明等の光の遮断に加えて金イオン濃度を高くすることで、金イオンの化学的安定性を向上できることを明らかにした。また、後者については、金ナノ構造体成長量のFIB照射面積依存性を定量的に評価し、金成長に関与するSi表面電子の移動距離について考察することに成功した。上記とは別に、液滴の追加による金属のさらなる成長も確認することができた。
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