研究課題/領域番号 |
25288113
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
中山 健一 大阪大学, 工学研究科, 教授 (20324808)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 有機エレクトロニクス / 有機トランジスタ / 有機EL / 発光トランジスタ |
研究実績の概要 |
これまでに蛍光系および燐光系の標準的な材料を用いて発光トランジスタを実現できたことから、今年度は、有機EL用ポリマーを発光層に用いたデバイスの作製を行った。コレクタ層に、典型的な発光ポリマーであるF8BTとホール輸送層NPBを積層し、その上にp型MBOTを積層した素子を作製した。その結果、10倍以上の電流増幅と10の4乗を超えるon/off比を示しトランジスタとして動作した。さらに、増幅電流に対応した発光が観測され、その電流発光効率は0.63cd/Aであった。これは、単独のポリマーELに比べて1/8程度の効率だが、ポリマーを用いた発光MBOTを初めて動作させることに成功した。 昨年度の検討の結果より、MBOTの大気下加熱プロセスが大きな性能低下を招くことが判明したため、今年度は、加熱なしでMBOTを動作させる全く新しい素子構造として、p/n積層構造を内包するMBOTの検討を行った。コレクタ層にn型のペリレンビスイミド、エミッタ層にp型のペンタセンを組み合わせたMBOTは、これまでとは異なるメカニズムにより首尾良く動作し、さらに幸運なことに、本デバイスが大気下加熱なしで動作することを見いだした。この構造を用いて発光MBOTを作製したところ、コレクタ層内での再結合による発光を観測した。 また、根本的にMBOTの性能を向上させるために必要な、縦方向移動度の向上について引き続き検討を行った。可溶性フタロシアニンを用いて塗布成膜条件を調整することにより、face-on配向の成分が増加することを見いだし、実際、縦方向移動度として0.12cm2/Vsという高い値を観測した。このように、face-on配向により縦方向移動度を向上させる必要性は、有機太陽電池の分野でも求められるようになってきており、太陽電池を用いた材料探索、そして太陽電池用の測定手法を用いた縦方向移動度の検証も行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
真空蒸着膜を用いた標準的な発光MBOT構造については、蛍光材料系・燐光材料系の低分子蒸着系について素子設計の手法を確立し、有機EL単独の性能に対して妥当な発光トランジスタ特性が得られることが分かってきた。さらに、MBOT性能の発現が難しいポリマー材料を発光層に用いた素子においても、発光トランジスタ動作を実現するところまで来ている。 一方で、MBOTの作成プロセスにおいて必要不可欠な大気下加熱プロセスが予想以上に発光特性の低下を招くことが分かってきた。それに対して、真空中での制御されたベース電極酸化技術、そして今年度新たに見いだしたp/n積層構造を用いることにより、大気下加熱を回避できる可能性が示されてきている。 以上のように、「有機EL材料をMBOTに組み込む」という目的に対しては、大部分の場合に実現可能であり、素子設計の手法も確立したと言える。さらに、根本的にMBOTの性能を向上させるための、「縦方向移動度」の向上に特化した取り組みを行っており、薄膜構造の評価方法、縦方向移動度の評価方法が確立しつつある。後は、有効な分子配列制御の手法を見つける必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の重要な課題の一つは、駆動電圧(エミッタ・コレクタ電圧)を下げることであり、そのためには縦方向移動度の向上に加えて、界面の少ないシンプルな素子構造にすることが有効であると考えられる。そのためには、発光ポリマーをコレクタ層にダイレクトに(単層で)用いた発光MBOTの実現が望まれる。今年度、F8BTを単独コレクタ層に用いた素子の作製を試みたが、今のところ電流増幅を観測できていない。ポリマー膜は表面が平坦で電流透過に必要なベース電極構造が得られにくいことから、これまでにポリマーMBOTにおいて培った技術を投入して、ポリマー発光MBOTを実現することを目指す。 今年度新たに見いだした、p/n積層構造を用いるMBOTについては、これまでとかなり異なるメカニズムである可能性が高いことから、逆に、本系がうまくいくことで、従来のユニポーラー型MBOTで課題であった、大気下加熱問題、ポリマーで性能が出にくい、といった課題が解決されることを期待している。 また、縦方向移動度の向上による高性能化の可能性については引き続き検討を行う。このアプローチは、縦型トランジスタに限らず、有機太陽電池や有機ELの性能向上においても大きなインパクトを与える可能性が期待される。共同研究先より、face-on配向する傾向のある半導体ポリマー材料を提供していただくことになっており、さまざまな材料系、そして表面処理などの手法を用いて、縦方向移動度の向上、そしてMBOT性能の向上を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
材料費等の消耗品の使用量を、当初の予定よりも節約できたため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度に、主に消耗品などの物品費や装置の修理費として使用予定である。
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