研究課題/領域番号 |
25288117
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
鐘本 勝一 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 准教授 (40336756)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 電子スピン共鳴 / 有機半導体 / 変位電流 |
研究実績の概要 |
近年、半導体スピン物性として、電子スピン共鳴(ESR)時に誘起される電流が注目されており、量子情報系への展開が世界的規模で図られている。申請者は最近、ポリマーダイオードを改変することによって、従来の最高値をはるかに凌ぐほどにESR時の電流を増強させることに成功した。本申請ではその成果を発展させ、全く新しい概念のスピントロニクス素子の創出を目指している。26年度は、まず、素子への応用展開を考えるために、従来使用していた材料よりも安定なポリマー材料について計測を行い、その性質を入念に調べた。その材料の場合、従来の材料よりもかなり応答が遅いことが分かった。このことから、ESR電流の動作において、キャリアのトラップ及びその解放が深く関与していることが明らかとなった。その試料における応答の遅さは、ESR電流の高速応答性を追求する上では短所になるが、その一方で、ESR電流がかなり大きく得られることが分かった。これにより、ESR電流の生成に起因した電気特性を高感度に検出することが可能となった。その結果として、ESRとともに素子の電気容量が変わることを実験的に証明することに成功した。そのように、ESRによる電子スピン操作と電気容量を直接結びつけた結果はこれまで報告がない。これらの機構をより詳細に探るために、電気容量の磁場効果を検証した。その結果、電気容量が磁場とともにわずかに変化し、それと同時に素子抵抗が変化することが分かった。このような電気容量と抵抗の相関は、正にキャリアがトラップもしくは解放されることで説明がつき、自らのモデルを裏付けるものとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
26年度の目標は、当初は、素子のESR誘起電流における高速応答性を追求するものであった。しかしながら、ESR電流値自体が予想していたよりも小さく、応用面を考える意味で短所となるため、発現機構に関して改めて追求することになった。その結果、発現機構を決定する多くの要因を明らかにすることができた。特に、電気容量の磁場効果が確認されたが、その曲線は、電子と核の超微細結合が関与することを示唆するものであった。本研究においては、核スピンと電子スピンの結合を利用してスピン操作することにより、メモリ機能の可能性を追求することを計画しているが、今回確認された電子と核の結合は、その展開を行う上で非常に重要なものとなる。また、全体的に、発現機構に関する理解をかなり進めることができた。これを基に、最適な素子材料についての改良を行い、高速応答性を含め、素子の応用性を拡張させることにつながりうる。以上により、現状では概ね順調に研究は進んでいると自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
上述の通り、核スピンと電子スピンの結合がESR誘起電流の起源であることがわかった。そのため、27年度では、当初の予定通り、ラジオ波照射によるESR電流の応答を検証し、メモリ効果への応用展開の可能性を探る。それに加えて、これまでの研究により、発現機構においてトラップ電子が関与することが強く示唆される結果を得た。これまでトラップ電子が物性を決定することを示唆する例は多く見られたが、全て曖昧なものであった。今回の結果は、素子内のトラップ電子の物性を決定づける非常に重要な成果であるため、当初の計画では重点的な項目に挙げていなかったが、入念に調べ上げ、新しい機構の提唱へとつなげたいと考えている。それと関連させて、当初の予定通り、磁気抵抗素子としての可能性も追求する。
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