研究課題/領域番号 |
25288118
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研究機関 | 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所 |
研究代表者 |
樫村 吉晃 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所, 機能物質科学研究部, 研究主任 (90393751)
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研究分担者 |
住友 弘二 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所, 機能物質科学研究部, 主幹研究員 (30393747)
塚田 信吾 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所, 機能物質科学研究部, 主幹研究員 (80454205)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ナノバイオ / 生体機能利用 / 電気生理 / 蛋白質 / 人工生体膜 / 脂質二分子膜 / 巨大脂質膜ベシクル |
研究実績の概要 |
1.静電相互作用を利用した微小井戸基板上の人工生体膜アレイ作製 前年度は巨大脂質膜ベシクル(GUV)の局所Caイオン刺激による人工生体膜アレイの作製方法を報告した。今年度は、これを改良し、正に帯電したGUVと負に帯電したシリコン基板表面との静電相互作用による平面膜展開現象を利用し、マイクロピペットを用いて任意の位置で脂質膜を作製する技術を開発した。これにより、従来方法で問題となっていたGUVのドリフトによる位置制御性の悪さが大幅に改善された。これは、本研究課題の目標であるシナプス型情報通信デバイス実現につながる重要な成果である。
2.底部電極付き微小井戸デバイスの特性評価と改良 前年度に試作した底部電極付き微小井戸デバイスの特性評価を行った。その結果、(1)基板表面と脂質膜との間に存在する薄い水の層からのイオンリークが存在すること、(2)微小なイオンチャネル電流に対して、シリコン基板由来の容量性ノイズが無視できないこと、がわかり、それぞれについて対策を行った。(1)に関して、微小井戸の周囲に金のリング構造を新たに設け、そこにアルカンチオール自己集積化膜(SAM)を形成した。微小井戸を脂質膜でシールしたときに、このSAM構造が基板-脂質膜間の水の層からのイオンリークのブロック層となり、イオンリークが大幅に低減することがわかった。(2)に関して、デバイスの全容量を低減するために、デバイス表面を低誘電材料であるBCB樹脂でコーティングした構造を新たに作製した。作製したデバイスの電気特性評価を行ったところ、rmsノイズが2.7pAから1.3pAと有意な減少が見られた。これらの成果は、微小なイオンチャネル電流を検知するために必要不可欠な知見・成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度以降の研究実施計画で挙げた、(1)微小井戸基板上の人工生体膜アレイ作製については、GUVの局所Caイオン刺激により作製手法の確立を達成した。しかしながら、GUVを井戸上に配置した時にGUVのドリフトが起こり、位置制御性があまり高くないという課題があった。そこで、GUVと基板との静電相互作用を利用した位置制御性の高い手法を新たに開発することに成功した。 また、(2)のイオンチャネルの導入に関しては、今年度は、従来のデバイス構造の問題点の洗い出しができた。イオンリークとノイズの低減という2つの大きな問題について、それぞれ改善策を提示することができ、今後の微小なイオンチャネル電流検出への目途がついた。また、多チャンネル電気生理計測系に関しては、デバイスと測定系(市販の多チャンネルパッチクランプアンプ)との接続インターフェイスを作製した。 以上のことから、全体としはほぼ順調に研究が進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
(1)電気生理的手法によるデバイス動作の実証 今年度はデバイス由来の容量性ノイズ低減のために、デバイス表面を低誘電材料であるBCB樹脂でコーティングした構造を作製した。デバイスの電気特性評価を行ったところ、rmsノイズが2.7pAから1.3pAと有意な減少が見られた。しかしながら、モデルタンパクとしてα-ヘモリシンを用いて機能計測を行ったところ、チャネル電流の減衰が確認された。このは、微小井戸の底部電極として分極電極である金を用いているために、電極界面における電気二重層へのチャージングが起きているためと考えられる。今後は、金電極の代わりに、不分極電極である銀/塩化銀電極を用いることによって、電気二重層の影響を排除し、膜タンパク質の機能計測実現を目指す。また、脂質膜シール率の向上のために井戸にオーバーハング構造を導入した新たなデバイスの作製を行う。まずは、α-ヘモリシンやグラミシジンなどの比較的単純なモデルチャネルでデバイス動作の確認をし、より高機能な膜タンパク質(例えば、アラメシチンなどの電位依存性チャネル)の機能計測を試みる。 (2)多チャンネル電気生理計測の実現 デバイスのマルチチャネル計測システムの確立を目指す。今年度に作製したデバイスと測定系との接続インターフェイスを用いて、ノイズ、ギガオームシール形成等の基礎的な電気特性評価を行い、装置セットアップの確認と最適化を行う。測定系の立ち上げ後、(1)のデバイス作製技術と融合し、マルチチャネル計測の実現を目指す。 (3)神経細胞成長制御の基礎検討 シナプス結合形成のためには、基板上に人工的に作製したポストシナプス近傍への神経細胞の誘導が必須の技術となる。そこで今後は、神経細胞成長のための足場としてシリコン微細加工で作製したナノメートルサイズのピラー構造に着目し、ナノピラーパターンによる神経細胞成長制御の可能性について検討を行う。
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