研究課題/領域番号 |
25289001
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
黒田 充紀 山形大学, 理工学研究科, 教授 (70221950)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 機械材料・材料力学 / 結晶塑性 / 寸法効果 |
研究実績の概要 |
平成26年度においては,次のような研究結果を得た. (a) 粒界の役割を調査するための実験研究:実験研究は次の手順で行った.(i)繰返し重ね接合圧延(ARB)で微小結晶粒板材を作製.(ii)引張り予ひずみを与えた試験片に反転負荷(圧縮)を与えてバウシンガー効果を観察.数例の実験結果が得られたが,微小サイズの試験片で精度の良いバウシンガー曲線を得ることが容易ではないため,再現性の確認には更に慎重に実験を重ねる必要がある.試行実験では,予ひずみが大きくなる程,バウシンガー効果が小さくなるという傾向が認められている. (b) 粒界モデルの構築:物理的な仮説に基づき,予測範囲が広いモデルをの枠組みを提案した.すなわち,粒界に堆積できる転位密度には限界があり,その密度に達すると粒界塑性流動が開始するという仮説を立てた(学会発表1件). (c) 粒界モデルのシミュレーションコードへの導入:上記(b)の 粒界モデルを,これまで開発してきた高次勾配結晶塑性論を搭載した解析コードに組み込んだ.多結晶体のモデル(9結晶粒)を作成して引張りにおける粒径効果のシミュレーションを行った.粒径が小さくなると塑性降伏後も転位による背応力の影響で見かけの加工硬化係数が上昇するが,ある応力レベルで転位堆積が限界に達して粒界塑性流動が開始し,硬化係数が一気に減少する現象を再現した(学会発表1件).これは(b)の仮説の正しさを証明するものではないが,既往の研究で報告されている降伏挙動の粒径依存性の巨視的観察結果を再現しうるものである. (d) 上記(b)(c)は結晶塑性理論を基礎とする研究であるが,その数値シミュレーションには多くの計算資源が必要になる.そこで,多結晶金属の寸法効果をより巨視的な視点と熱力学の観点からモデリングし,工学的な計算に用いることが容易な塑性理論の定式化の基礎を提案した(学会発表2件).
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
微小結晶粒材料の予ひずみを変化させたバウシンガー試験を行うことによって,粒界モデル構築のための基礎的かつ定量的な知見を得る計画であったが,微小結晶粒材料の試験片はサイズが小さいため,当初の予想以上に圧縮試験における摩擦の影響を正しく除去する難しく,再現性の点で実験結果に多少の疑義が残っている.このため,当初の計画には無かったが,板を多層接着した直方体型の試験片を用いる第二の圧縮試験法にもトライしている.このような経緯から実験研究に遅れが出た.一方で,物理的仮説(粒界降伏仮説)に基づく粒界モデルを提案し,多結晶解析にまで適用してみたところ,既往の研究で繰り返し報告されている粒径依存の降伏現象は,同モデルによる定性的には表現可能であるという感触を得るに至っている.今後,バウシンガー試験の精度向上が達成できれば,粒界降伏の仮説によるモデルはより精密化することが期待できる.このような状況ではあるが,当初予定のバウシンガー試験の精度が仮説の定量的評価に資するまでに至っていないという点を考えて,「やや遅れている」という自己評価とした.
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画調書においては,代表的な次の3つのタイプの金属材料の力学的性質の寸法効果について研究するとしていた: (1)部材そのものが小さいことによる寸法効果,(2)多結晶金属における結晶粒サイズの効果,(3)分散強化機構における介在物のサイズの効果.当初の研究計画書においての「計画通りに進まないときの対応」として,H26までの進捗が遅くなった場合には研究目的のうち「(3)分散強化機構における介在物のサイズの効果」への着手は見送って,「(2)多結晶金属における結晶粒サイズの効果」の研究に専念するとしていた.自己評価の欄にも述べたように,多結晶体の粒界の役割の定量評価が実験的に十分解明できていない段階であるので,(3)の課題には進まず,(2)までを本研究の範囲とすることしたい.
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末(2015.3.17-3.20)に学会出張(欧州)があったので,その旅費の清算時点で,次年度使用額 (\56,212)が確定した.これは特段意図したものではなく,外国旅費の確定に対して若干の余裕を持って臨んだ結果である.
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次年度使用額の使用計画 |
物件費(実験関連の消耗品費)として使用予定.
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