研究課題/領域番号 |
25289007
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
倉敷 哲生 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (30294028)
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研究分担者 |
中西 康雅 三重大学, 教育学部, 准教授 (00378283)
宮坂 史和 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (80304012)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | マルチスケール解析 / 複合材料 / 有限要素法 / 粒子法 / 樹脂流動 / 減衰特性 / 信頼性評価 |
研究概要 |
エネルギー問題の深刻化を受け,燃料電池自動車および水素ステーションが着目されているが,高圧水素の輸送技術が立ち遅れ課題となっている.従来の鋼製容器による輸送方式に替わり,高強度,軽量性に優れる炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を用いた水素蓄圧複合容器が望まれるが,複雑な繊維束の交錯形状に起因し十分な強度が発現できない点が指摘されている.複雑なミクロ・メゾ構造が構造物全体(マクロ特性)に及ぼす影響を評価し,CFRP製複合容器の設計・評価手法が確立できれば,精度の高い構造解析・信頼性設計が可能となる.そこで,水素蓄圧複合容器の設計・評価手法の開発を目的に,粒子法に基づく成形時のミクロ構造の樹脂流動解析手法の構築と,マルチスケール解析技術による炭素繊維のメゾ構造の強度特性評価・減衰特性評価を実施した. 粒子法によるミクロ構造の樹脂流動解析手法の構築に関して,樹脂と繊維の相互干渉を表現可能なモデルの構築を進めた.”樹脂の流動性”および”樹脂と繊維の濡れ性”をパラメータにしてシミュレーションを行った結果,これらのパラメータがボイドの形成現象に大きな影響を持っていることを確認した.ただし,現段階のモデル計算では,ボイドの表現方法が不十分であるため,ボイド発生後の挙動を予測することが困難であるため,今後はボイド挙動のモデル化を進める. また,開繊織物複合材料の振動減衰シミュレーションを実現するため,材料の振動減衰シミュレーションへのマルチスケール解析技術の適用可能性について検討した.まず,ひずみエネルギー理論と有限要素法に基づいて直交異方性材料の材料減衰モデルを定式化し,織物複合材料に適用できることを確認した.次に,マルチスケール解析法を適用し,振動減衰モデルを定式化するとともに,解析プログラムを構築した.そして一方向繊維強化複合材料を対象に,開発した解析プログラムの検証を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
粒子法による樹脂流動解析手法について,最終的には,三次元的な繊維配置が樹脂流動に与える影響を予測可能なモデルの構築を目指している.現状は流体(樹脂)と障害物(繊維)の相互作用を考慮に入れた段階である.残された課題として,樹脂の熱物性(冷却・加熱時の特性)が,その挙動に与える影響を評価可能なモデルの構築が一つ目に挙げられる.また,複雑に配置された繊維が樹脂流動に与える影響も検討する必要があるが,こちらに関しては,計算ボリュームが増大することが予想され,解析時間の短縮(計算速度の向上)が求められる. また,織物複合材料は複雑な繊維強化形状を持つため,有限要素法に基づいてモデルを構築すると要素形状が歪み計算精度に悪影響を及ぼす.そこで,織物複合材料を対象としたメゾ構造についてモデリング手法を構築し,モデルが解析精度に及ぼす影響を調査した.また,マルチスケール解析の概念を振動減衰モデルに適用し,定式化するとともに解析プログラムを構築することができた.また,一方向繊維強化複合材料を対象に,解析プログラムの精度を検証した.
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今後の研究の推進方策 |
粒子法による樹脂流動解析については,さらに粒子法によるモデル構築を進める一方で,構築した計算モデルの妥当性を検証する必要がある.しかし,繊維間の樹脂の流動過程を計測することは困難であるため,それに代わる検証方法を考える必要がある.現状では,水滴もしくは樹脂液滴を繊維上に滴下したときの静的な挙動と同条件の解析結果を比較することによって妥当性を検証している.さらに樹脂流動とボイド欠陥形成の関係を検証するためには,実際の成型後に確認されるボイドとその時の成型パラメータからモデルの妥当性を検証する必要がある. マルチスケール解析プログラムを開発し,一方向繊維強化複合材料を対象にして解析プログラムの精度を検証した結果,振動減衰シミュレーションとして十分な精度を有することを確認できた.そこで,今後は織物複合材料を対象に検証を行う.まず,平織物複合材料を対象として,マルチスケール解析法の解析精度を従来法と比較することで検証する.また,マルチスケール法により織物複合材料の振動減衰メカニズムを検討する.具体的には,繊維強化形態や材料異方性との関係から消散ひずみエネルギー分布をもとにして調査する. また,ミクロ構造の不確定性を考慮した強度評価手法の構築を図る.特に,ミクロ破壊を効率良く評価すべく,傾斜周期境界条件を用いて繊維垂直方向強度を評価し得るミクロ構造モデルを構築し,繊維間隔や負荷方向との角度が強度に及ぼす影響を評価する.さらに,メゾ構造モデリング手法について,メゾ構造の繊維束と樹脂を別々にモデル化し,同一スケールで重ね合わせて同時に解く独自のマルチスケール解析手法を展開し,炭素繊維積層材ワインディング構造の有限要素モデル化を行う.上記の手法を基に,繊維の巻き角度,積層構成等の設計パラメータを変えた場合の複合容器のマクロ構造モデルを作成し,力学的特性評価を実施する.
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次年度の研究費の使用計画 |
当初の研究計画の予定通り研究は進んでいる.これらの成果について広く国内外で学会発表を行うとともに,関連研究者との意見交換を進め,アドバイスを頂きながら研究を推進していくことを計画している.当該年度での学会発表の申し込みに間に合わなかったため,次年度の研究費として使用し,学会発表を行う. 主たる使用計画の内容は旅費(国際会議参加費)である.ECCM-16(第16回欧州複合材料国際会議)やICM&P2014 symposiumにおいて学会発表を行う予定である.
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