研究課題/領域番号 |
25289024
|
研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
中西 義孝 熊本大学, 自然科学研究科, 教授 (90304740)
|
研究分担者 |
三浦 裕正 愛媛大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (10239189)
村瀬 晃平 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (80298934)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 人工関節 / トライボロジー / 炎症性サイトカイン / 表面テクスチャリング / 摩耗粉解析 / 細胞毒性 / 超精密加工 / 貪食作用 |
研究実績の概要 |
人工関節から発生する超高分子量ポリエチレンの摩耗粉は人工関節周辺組織の炎症や骨融解を引き起こす。生体反応を抑制するためには、摩耗粉の量を抑制することも大切であるが、摩耗粉のサイズを大きくすることのほうがより大切である。なぜならば、摩耗粉が大きければマクロファージからの貪食が抑えられ、炎症性サイトカインの産生を抑制できるからである。 人工関節の摩擦面を研磨する場合、従来の研磨法(ラッピング)にトライボロジー(摩擦・摩耗・潤滑理論)の概念を取り入れ、シナジー技術を得ることにより、様々な性状の摩擦面を創成出来るようになった。特に、平成26年度に新たに見出したウェットブラスティング法の援用は、新しい超精密加工法の提案および創成装置の完成を導きだした。当該加工方法の成功により、ポリエチレンと接触する可能性がある山部での算術平均粗さ、および山部と谷部の高低差をナノメートルオーダーで調整できるようになったほか、摺動面全体における山部と谷部の歪度や摺動面全体の尖度をもコントロールすることが可能になり、摺動面テクスチャの設計範囲を格段に拡大することが可能となった。 創成されたCo-Cr-Mo合金を適用することで、ポリエチレンの摩耗量は50%以上減少し、摩耗粉サイズは肥大化する傾向となった。炎症性サイトカインの産生量(IL-6とTNF―α)は、提案する摺動面を適用することで一般的な面を適用するよりも90%程度産生量を抑制できることが明らかとなった。さらに、この研究過程において、新たな生体反応の発現機序を見出すことに成功した。従来、マクロファージによる貪食と炎症性サイトカインの産生量は、異物サイズが大きいほど減るとの報告があった。しかし、異物サイズが大きいときは抗炎症性サイトカインの増加も認められたため、相対的に炎症性サイトカインの産生量が減っているように見えるだけであることが明らかとなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
炎症性サイトカインの産生を抑制する摺動面テクスチャを見出すことができた。摺動面テクスチャは人工関節用超高分子量ポリエチレンの相手材料であるCo-Cr-Mo合金上に付与し、ポリエチレンと接触する可能性がある山部での算術平均粗さを2nm程度、山部と谷部の高低差を170nm程度、摺動面全体における山部と谷部の歪度を0近傍、ならびに摺動面全体の尖度を0近傍にするべきであるという設計方針を得ることができた。 この表面創成のために、平成25年度までは従来の精密研磨(ラッピング)とトライボロジー(摩擦・摩耗・潤滑理論)のシナジー技術よる表面テクスチャリングを行ってきたが、より高速かつ高精度なテクスチャリング方法としてウェットブラスティング法を援用した新しい超精密加工法および装置を完成させることができた。この加工法は平均粒径1.2μm程度のアルミナ粒子を混合させたスラリーを圧縮空気によって高速噴射させ、加速された粒子の一つ一つがCo-Cr-Mo合金面に微細なエロージョン摩耗を発生させる方法である。ノズルをメカトロニクス技術により移動・制御することで多彩な表面性状を得ることができる。 テクスチャ面の有効性評価は回収された摩耗粉の分析と細胞毒性実験により実施されている。平成25年度までは、摩耗試験に模擬関節液を利用し、細胞にはマウス由来RAW246を利用していたが、平成26年度においては潤滑液を牛血清に、細胞をヒト血清由来単核食細胞に切り替え、より的確な評価が可能となった。創成されたCo-Cr-Mo合金を適用することで、ポリエチレンの摩耗量は50%以上減少し、摩耗粉サイズは1μm以上のものへと肥大化する傾向となった。炎症性サイトカインの産生量評価としてIL-6とTNF―αを調査したが、提案する摺動面を適用することで一般的な面を適用するよりも90%程度産生量を抑制できることが明らかとなった。
|
今後の研究の推進方策 |
【1.試験装置の更新による摩耗特性試験の精度向上】人工関節シミュレータ試験に移行する前の最終段階として、多方向滑り型pin-on-disc装置を更新し、研究データの精度を向上させる。おもな更新点は潤滑液として利用している牛血清の汚染防止対策と温度管理、摩擦機構部の高剛性化ならびに接触面圧条件のアクディブコントロール化である。 【2.人工関節表面創成のための自動化システムの構築】これまでの人工関節表面創成法の成果を活用し、表面加工の自動化システムを構築する。人工関節表面としてよりふさわしいテクスチャパターンを数値化し、数値入力にて自動加工できるシステムの構築を目指す。 【3.細胞試験方法の更新により生体反応試験の精度向上】細胞毒性試験のための細胞をヒト由来に移行させたが、実験数の増加も含め、分析精度の向上をめざす。炎症性サイトカインの分析対象としてIL-6とTNF-αを継続選定する他、定量試験もあわせて実施し、摩耗粉サイズと炎症性サイトカイン/抗炎症性サイトカインの関係を明瞭にする。 【4.人工関節形状への適応】継続的な課題遂行により得られた、A:高機能性状面の自動加工システム、B:高機能性状面創成のための加工パラメータ、C:高機能性状面の形態パラメータ、D:細胞培養試験により得られるサイトカイン産生量、の関係を明瞭化し、最終段階となる人工関節形状への適応をめざす。これに対応できる加工装置の概念設計を終了させ、既存の人工関節においても摺動面加工過程の差し替えで対応可能な人工関節性能向上システムの構築を目指す。
|