研究課題/領域番号 |
25289029
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
亀田 正治 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (70262243)
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研究分担者 |
天尾 豊 大阪市立大学, 複合先端研究機構, 教授 (80300961)
中北 和之 独立行政法人宇宙航空研究開発機構, 航空本部, 研究員 (50358595)
横山 博史 豊橋技術科学大学, 大学院工学研究科, 助教 (60581428)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 流体工学 / 航空宇宙工学 / 計測工学 / 感圧塗料 / 風洞実験 |
研究概要 |
ファンや風車のような回転翼全体の表面圧力分布を把握することを目的として,塗装型高速応答感圧塗料(PSP)による移動物体周り非定常圧力場計測法の確立を図った.CFD(非圧縮LES)解析結果との比較を通じて,0.1 kPa以下の振幅を持つ表面圧力変動分布を定量的にとらえる計測システムの構築を進めた. まず,PSP 出力の温度・湿度依存性補償法を検討した.大型恒温恒湿器と飽和塩法による調湿を組み合わせて,温度,湿度,圧力を独立に制御できるPSP較正試験装置を構築した.この装置を用いて,高速応答型感圧塗料の一つであるAA-PSP発光特性を詳しく調べた結果,それぞれのパラメータが微小に変化する範囲では,a priori法で湿度,温度依存性を補償できることがわかった (吉田ら2013; 関谷ら2014). つぎに,回転体発光画像撮影システムの構築と圧力算出画像処理プログラムを開発した.高速度ビデオカメラとレーザダイオード光源を用いて,回転中の小型ファン表面に塗布したPSP, 感温塗料(TSP)画像を取得するシステムを構築した (田近ら2014). また,異なる2枚の翼面上のPSP, TSP出力を組み合わせた処理を行うために,翼外縁を正確に一致させる画像処理アルゴリズムを構築した (Makoshiら 2013) 最後に,PSP/PIV複合計測による空力音源探査方法を構築した.円柱を対象に,表面変動圧力場をPSPによって,円柱周りの速度場をPIVによって測定する風洞実験を行った.スパン方向の圧力相関,速度場から得た渦度の相関を比較し,両者が良く一致することを確認した(Kamedaら2013).
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の最終的な目標は,ファンや風車のような回転翼全体の表面圧力分布を対象に,0.1 kPa以下の振幅を持つ表面圧力変動分布を定量的にとらえる感圧塗料(PSP)計測システムを構築し,得られた圧力データを遠方場の空力音響を予測する有効な手段であることを示すことである.この目標に対する本年度の達成度は約3分の1と考えている. 本年度の最大の成果は,測定精度に大きな影響を及ぼす他の環境要因(温度,湿度)がPSP出力に与える影響を評価するための較正試験装置を立ち上げに成功したことである.また,この装置を用いた試験により,PSP出力に対する温度,湿度依存性をa prioriに補償できる目途を付けたことも目標に近づく成果である. ファン模型表面のや風車のような回転翼全体の表面圧力分布計測システムの構築では,温度補正を行うための画像処理法にめどをつけたことが大きな成果である.これに対して,カメラ撮影法については,パルス発光による高速度カメラ撮影がもっともよい画像を得られるだろうという見通しを得た段階である. 最終的な目標に近づくためには,現在未達の表面圧力分布計測システムの確立,PSP時間応答性に対する湿度影響の定量化,PSP測定データに基づく遠方場音場の推定アルゴリズムの構築が必要である.
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今後の研究の推進方策 |
まず,ファン表面圧力計測のための撮影システムを確立する.前年度の試行の結果もっとも精度を確保できるとの見通しをもった,高速度カメラとパルス発光の組み合わせに焦点を絞り,撮影方法の最適化を図っていく.実験は大学院生1名(田近義宏)の協力を得て研究代表者が実施する.得られた実験結果を,研究分担者(横山)が実施済みのLESに基づくCFD解析結果と照らし合わせ,測定精度を定量的に把握する.さらに,発光量の不足による測定精度の限界に備えて,研究分担者(天尾)の助言を受けながら,新しいPSP色素,TSP色素の探索も進めていく. つぎに,PSP発光時間応答性に対する湿度の影響の定量評価を進める.恒温恒湿槽内に共鳴管を設置し,スピーカー駆動によって100 Hz-10 kHzの範囲におけるPSP出力を測定する.特に高周波数域での出力特性に着目し,PSP表面への水分吸脱着の動力学を踏まえた応答特性の数理モデルを構築する.数理モデルによる出力の補償によって,実際のPSP非定常圧力振幅測定精度の改善を図る.実験は学部卒論生(渡邊渉)の協力を得て研究代表者が実施する. 最後に,PSP測定データに基づく遠方場音場の推定アルゴリズムを構築する.本テーマは,学部卒論生(野田貴宏)の協力を得て研究分担者(中北)が中心に進めていく.JAXA所有の開放型風洞を用いて,円柱から放射される遠方場の空力音をマイクロフォンアレイにより測定する.並行して測定したPSP出力からLighthill-Curle則により予測される遠方場音場との比較を通じて,PSP出力による音響解析の有効性を検証する. 日本航空宇宙学会流体力学講演会,日本機械学会年次大会,流体工学部門講演会などでの成果発表を予定している.また,Measurement Science and Technology誌などでの論文公表を予定している.
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度主な物品として挙げていた高速度ビデオカメラを購入しなかったためである.当初候補として挙げていた機種について,デモ機を評価した結果,高速度撮影時のシャッター機構(ローリングシャッター)の問題で,回転している物体を正しく撮影できないことがわかった.そのため,本年度は,現有の高速度ビデオカメラによって研究を進めていた. 本研究の推進に役立つ高速度ビデオカメラの購入費用に充てる.CMOS撮像素子を有する高解像度高速度カメラを検討対象とし,パルス発光に対する撮影特性を詳しく評価した上で適切な機種を選定していく.
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