本研究では,微生物分散流体を,周囲環境に応じて挙動を変化させる能動粒子の分散系としてとらえ,複雑流体の一種として取り扱い,複雑流体に対して用いられてきた流動解析手法を応用し,生物系粒子分散系に対する数値解析モデルを開発するとともに,その流動解析を行った.その主な研究成果として,次のものが得られた.(1) Multi-Particle Collision Dynamics (MPCD)を能動粒子分散系に適用し,走光性をもつ微細藻類分散系の数値解析モデルを提案した.さらに,そのモデルを用いて流動解析を行った.そして,走光性に由来する速度分布の変形や実験において見られる生物対流現象の再現に成功した.(2) 走光性微細藻類分散系の流動解析のための連続体モデルを作成し,流路内流れの解析に適用した.数値計算により藻類密度分布の時間変化に対応した速度分布の変化を捉えることができた.(3) エージェントベースモデルを用いて,各生物個体間の相互作用を模擬したルールに基づきエージェントの行動シミュレーションを行い,個体間相互作用によりネマチック液晶などで見られるものと類似の系の内部構造の形成を確認した.また,MPCDを用いた扁平粒子分散系の解析により,外場によって配向を強く制御できる粒子を少量添加することで,それらが他の粒子の配向挙動を導くリーダー粒子としての役割を果たし,系全体の配向度をより効率的に制御できることを見いだした.これらのシミュレーション結果より,生物規範による新規の構造形成の可能性が示唆された.(4) セルオートマトン法(CA法)を用いた生物関連流体問題の数値解析として,流動中のバイオフィルム成長現象に関する数値シミュレーションを行った.そこでは,個体間あるいは個体と環境間の比較的簡単な相互作用規則で微生物挙動を表現することで,複雑な成長現象が再現され,CA法の有効性が示された.
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