研究課題/領域番号 |
25289038
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
佐藤 勲 東京工業大学, 理工学研究科, 教授 (10170721)
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研究分担者 |
齊藤 卓志 東京工業大学, 理工学研究科, 准教授 (20302937)
川口 達也 東京工業大学, 理工学研究科, 助教 (40376942)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | エネルギー工学 / 吸着蓄熱 / プラスチック射出成形 |
研究実績の概要 |
平成26年度は、より実用に近い条件において、本研究で提案する金型に内包したデシカントによる吸着蓄熱を利用したプラスチック射出成形用金型の温度制御手法の実現可能性を検討した。すなわち、型剛性に対する吸着蓄熱材の補強効果の検討と、キャビティ表面近傍に設置したデシカントによるキャビティ表面温度制御性について実験的に検討を行った。さらに、昨年度の結果から必要性が示唆された高速な金型冷却のための脱着促進についての検討も実施した。 溶融樹脂の持つ熱エネルギーと吸着蓄熱エネルギーによって金型キャビティ表面を効率的に加熱するためデシカントをキャビティ表面近傍に設置した試作金型で実際に成形を行ったところ、デシカント内包部の剛性が他の部分に比べて低いため、金型の変形が生じ、成形品の形状精度が保てないことが明らかとなった。また、必要な加熱量を確保するためデシカント層の厚さを大きくすると、多孔体であるデシカントの熱伝導率が低いため、キャビティ表面の温度上昇がデシカントのそれに比べて限定的になることも示された。そこで、デシカント内包部の剛性確保とデシカント内部からキャビティ表面への熱移動の促進のため、キャビティ表面からデシカント層内に向けてフィンを設置することを試み、これが型剛性とキャビティ表面加熱の双方に効果的であることを明らかにした。 一方、金型の冷却に際しては、デシカントに吸着した水蒸気を真空ポンプで強制脱着することである程度高速化できるが、次工程である吸着発熱の効果を高めるために脱着量を大きくするには、強制排気後、工業排熱等を利用してデシカント温度を上昇させることが望ましいことが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、前年度に得られた吸着蓄熱材を利用したプラスチック射出成形金型の温度制御手法の基礎特性をもとに、より現実的な条件でその制御性を検討し、射出成形公金型の構造的制約や型剛性といった熱工学以外の視点を加味して望ましい温度制御方法に関する知見を得ることができている。一方で、前年度の結果から示唆されたとおり、金型冷却を射出成形に求められる時間スケールで実現するためには、金型の持つ熱エネルギーの利用だけでは十分でないことも明確になりつつあり、他の工業廃熱の利用など、新たな方策を検討する必要が生じている。これについては最終年度に、本手法による省エネルギー効果の検討と併せて評価していくこととする。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画の最終年度である平成27年度には、これまでの検討結果を踏まえ、溶融樹脂からの熱移動によって金型表面を加熱する手法との組み合わせ、真空ポンプによる水蒸気の強制排気による冷却速度の向上効果、さらには他の工業廃熱を利用した吸着蓄熱に関する検討を継続するとともに、得られた知見を基に、提案する動的温度制御金型の実際のプラスチック射出成形における効果を検討し、望ましい条件設定や消費エネルギー削減効果、生産性への影響等を実用的な指針として取りまとめる。 動的温度制御金型を用いて成形される射出成形品の多くは、表面に微細形状を持つ製品や、ウェルドラインやフローマークと呼ばれる表面不良現象の発現を極端に嫌う製品、あるいは鏡面加工が施された製品など、表面性状の品質を問題とするものが多い。そこで、こうした表面を有する金型を試作し、蓄熱材の吸脱着、溶融樹脂からの熱移動、水蒸気の強制排気等の手法が成形品表面品質に与える影響を評価するとともに、消費エネルギー削減効果、生産性への影響についても検討を加え、実用的な指針として取りまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度の計画のうちデシカントに吸着した水蒸気の強制排気の金型冷却促進効果の検討については、現有の真空ポンプを用いた初期実験によって、冷却速度の向上は認められるものの、次工程での吸着発熱量を確保するためには工業排熱等の別の熱エネルギー源が必要であることが明らかとなったため、新規真空ポンプの導入を取りやめた。
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次年度使用額の使用計画 |
繰越残の経費は、次年度に実施する実成形品の品位評価のための計測機器導入、ならびに新たに生じた課題である工業排熱の有効利用のための方策の検討のための経費に充てる。
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