研究課題/領域番号 |
25289042
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
北原 辰巳 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (50234266)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 熱工学 / 固体高分子形燃料電池 / ガス拡散層 / マイクロポーラス層 / 水管理 |
研究概要 |
固体高分子形燃料電池(PEFC)の性能を向上させるためには,電解質膜を適正な湿潤状態に保ちプロトン伝導性を高めるとともに,電極触媒層の過剰な水分を速やかに排出してフラッディングの発生を防止することが重要である.通常のPEFCでは加湿器を設けアノード・カソード両極に加湿した反応ガスを供給している.しかし近年はPEFCの総合効率向上,並びにコスト低減の方策として加湿器を設けない簡便なPEFCの実用化が求められており,無加湿運転時の発電性能向上が重要な研究課題になっている.撥水マイクロポーラス層(MPL)を塗布した拡散層を適用するとPEFCの水管理性が向上し,高い発電性能が得られることを示した研究結果は従来から多く報告されている.しかし耐ドライアップ性と耐フラッディング性を向上させるための設計指針が各々異なっており,耐ドライアップ性を高めたMPL付き拡散層は一般に耐フラッディング性に劣ることが問題になっている.無加湿運転時においても高電流密度条件下では生成水によるフラッディング発生を防止することが不可欠であり,耐ドライアップと耐フラッディングの両特性を向上させた高ロバスト性ガス拡散層の開発が課題である.本研究では耐ドライアップ性を向上させる方策として,撥水MPL表面に薄い親水層を塗布した親水・撥水複合MPL付き拡散層を考案した.複合MPLを適用すると親水層により電極触媒層の保湿性が高まると同時に,親水層と基材の間に設けた撥水MPLにより基材部を流れる乾燥ガスが親水層部の水分を取り去ることを抑制できるため耐ドライアップ性が大幅に向上することを明らかにした.さらに複合MPLにおける撥水MPL部を二層構造にし,撥水MPLの撥水性に勾配をもたせた三層MPL付き拡散層を適用すると,電極触媒層から基材への排水性が高まり耐フラッディング性が大幅に向上することを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
PEFCの耐ドライアップ性を向上させる方策として,撥水MPL表面に薄い親水層を塗布した新規な親水・撥水複合MPL付き拡散層を考案した.複合MPLを適用すると親水層により電極触媒層の保湿性が高まると同時に,親水層と基材の間に設けた撥水MPLにより基材部を流れる乾燥ガスが親水層部の水分を取り去ることを抑制できるため低加湿条件下の発電性能が大幅に向上することを明らかにした.さらに複合MPLにおける撥水MPL部を二層構造にし,撥水MPLの撥水性に勾配をもたせた三層MPL付き拡散層を適用すると,電極触媒層から基材への排水性が高まり耐フラッディング性が大幅に向上することを明らかにした.
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今後の研究の推進方策 |
MPL付き拡散層の一次物性(細孔径,厚さ,空隙率,接触角など)と高次物性(空気・液水・水蒸気透過性など)の基本性能評価法を確立し,一次物性が高次物性に及ぼす影響を明らかにする.PEFCに組付けた拡散層と同様な圧縮荷重を負荷した条件で,拡散層の厚さ方向・面方向の空気透過性を評価できるようにした試験装置を用いて空気透過試験を実施する.表面張力の小さい不揮発性アルコールを細孔中に含浸させた拡散層を用い空気透過試験を実施することにより細孔径分布を求める.空気透過試験と水蒸気透過試験の両結果から得られる最大細孔径が等しくなることに着目して拡散層の細孔内の接触角を求める.PEFC発電時の生成水と同一量の液水を拡散層に供給して水透過試験を実施する.拡散層下部に透水開始(バブルポイント)圧力以下で液水を供給し,拡散層上面に設けた流路を流れる空気中の水蒸気濃度変化から水蒸気透過性を評価する.透水開始圧力以上で水透過試験を行った直後に空気透過試験を実施することにより,PEFC発電時と同様な湿潤条件下で拡散層の排水性と酸素透過性を評価する.PEFCの限界電流密度の解析により,発電中の拡散層内部における酸素拡散抵抗の値を求める.これらの基本性能評価法で得られた試験結果に基づいて,耐ドライアップと耐フラッッディングの両特性を向上させるための高性能ガス拡散層の細孔構造,並びに親水・撥水性に関する最適設計指針を明らかにしていく.
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次年度の研究費の使用計画 |
供試ガス拡散層の表面分析および基本性能評価試験に多くの研究時間を充てたため,燃料電池評価試験の実施回数が少なくなった.その結果,当初実験で使用する予定であった膜電極接合体の一部購入が不要となった. 次年度は燃料電池評価試験の実施回数を増やして研究を進める予定であり,試験回数の増加に応じて膜電極接合体を追加購入する予定である.
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