研究実績の概要 |
本研究では,低次元効果による熱電特性向上を目的とし,厚さ10nm程度の極薄膜の生成を試みた.p型ビスマステルライドを対象とし,アークプラズマ蒸着法を用いた.この手法によれば,1放電あたり0.5nm厚の薄膜が生成できるため,放電回数によって非常に薄い膜厚を制御できる.蒸着中の基板温度が室温程度の場合,不連続薄膜になりやすく,厚さ10nm程度の薄膜を生成することが困難なことも明確となった.新たに基板加熱する装置改良を加え,基板温度150, 200, 250 ℃で薄膜生成した.さらに結晶性を高めるため,アルゴン雰囲気下で250℃,1時間アニールした.ガラス基板,アルミナ基板,単結晶チタン酸ストロンチウムを基板に用いたが,SEMによる観察,X線回折による評価,熱電特性測定結果では,生成した薄膜に大きな違いは見られなかった.生成された薄膜は原料との組成のずれが小さく,XRD結果からc軸配向性の向上や結晶粒の成長を確認できた.基板温度200℃で生成した薄膜のパワーファクターは, 14.1 uW/(cm・K),測定した熱伝導率と併せて室温でのZTは0.51だった.さらに最適化された基板温度 200℃の条件で膜厚75nm, 41nm, 10nmのビスマステルライド熱電薄膜を得た.膜厚の増加に伴い電気伝導率が増加し,膜厚75nmで933S/cm ,ゼーベック係数は膜厚 10nmの薄膜で最高値169uV/Kだった.しかし,低次元化によるゼーベック係数の飛躍的な向上は確認できず,キャリア濃度や移動度の関係で説明できる範囲だった.低次元効果の発現には膜厚1nmが提案されており,さらなる極薄膜化には,薄膜成長速度を抑えながら,同時に化合物組成を保つ蒸着法が必須と考えられ,極薄膜生成に向けた今後の課題が浮き彫りとなった.
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