研究課題/領域番号 |
25289051
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
雉本 信哉 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (30204861)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 音声マスキング / 能動音響制御 |
研究実績の概要 |
昨年度から引き続いて線形予測フィルタを用いたマスキング音生成手法について研究を進めた結果,日本語単母音について従来のマスキング音である帯域制限ピンクノイズに比べて低い音圧で効果が認められた。一方で,多数の単語を聴取する単語了解度試験を実施したところ,提案手法は従来法に比べて認識率が高くなってしまう(マスキング効果が低い)ことを確認した。単語は意味を有しているため,一部分(母音部分)がマスクされたとしても全体として認識可能となることが一因であり,本手法の改善が必要であることが判明した。 能動音響制御を併用するマスキング手法についても検討している。対象音声を特徴づけるフォルマント周波数の関係を崩すようなマスキング音を生成するとともに,能動音響制御手法によって音圧を低減し,結果として音声認識を困難にしつつ音圧上昇を抑制する手法である。音声の特徴量として,音韻性と個人性がある。音韻性はその音声がどのような音であるかを表し,個人性は発話した個人の特徴を表している。本手法では,対象音声の個人性を確保したまま音韻性を崩すような帯域成分を持つマスキング音を生成する。この結果,対象音声とマスキング音とを聴取した場合の融合性が高くなり,対象音声とマスキング音の区別が困難となることが期待できる。聴取実験の結果,ある程度の効果を確認できたが,対象音声の情報を用いているために,マスキング音自体に対象音声の音韻部分が含まれてしまったためマスキング効果が不十分であることがわかった。 さらにオフィス利用を前提としてパーティションに能動音響制御およびマスキング性能を付加した実験装置を試作している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
母音に対する効果と,単語に対するマスキング効果の違いを確認することができた。また能動音響制御を併用することで音圧を増大させずにマスキング効果を得ることが可能であることを,シミュレーションおよび実験で確認することができた。さらにパーティションに能動音響制御システムを付加した能動遮音壁を試作し,騒音低減効果を確認した。対象音声の個人性因子(特徴)を保持したマスキング音の生成手法を新たに提案しある程度の有効性を示すことができた。ただし,単語を対象とした単語了解度試験を実施したところマスキング効果があまり高くないことを確認し,この現象について引き続き解決に向けて研究を進めていく。
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今後の研究の推進方策 |
単語了解度試験の結果が思わしくなかったことから,今後は,単語を構成している音素間のつながりなども考慮して適切なマスキング音生成手法を引き続いて研究する。現状では対象音声の情報を用いる手法がある程度効果的であることがわかっているので,その手法に改善を加える予定である。能動音響制御との併用についても検討を加える。また能動遮音壁によるマスキング効果についても実験的に検証する。その際,制御領域の広がりについても確認する。 マスキング効果の定量評価については現状は聴取実験を実施しているが,実験が長時間にわたることもあり,被験者の負担を考慮し,聴取実験に代わる定量的評価手法についても検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題に関連する博士課程学生のRA経費(人件費)を支出したため申請時と旅費,人件費の部分で変更が生じたものの研究遂行に関する主要経費の使途に大きな変更はない。残額については次年度で使用する。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額については,当初計画の変更が必要な額ではなく,当初の計画に沿って使用する予定である。
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