研究課題/領域番号 |
25289071
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小野 亮 東京大学, 新領域創成科学研究科, 准教授 (90323443)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | プラズマ医療 / 真空紫外光 / 活性種 / レーザー計測 / エキシマランプ |
研究実績の概要 |
前年度に引き続き高輝度VUVランプの製作に取り組んだが、技術的に難しくうまくいかなかったため、代替品として輝度が当初予定の40%程度である安価なXe2エキシマランプを購入して実験を行った。最初に、本研究で提案する真空紫外法で予想通りの活性種を生成できるかどうかを計測とシミュレーションで検証した。石英管に加湿ヘリウムあるいは酸素-ヘリウム混合気を流してVUVランプを照射し、光解離反応で生成したO3およびOHラジカル密度を計測したところ、シミュレーションで予測した密度とそれぞれ20%および3~4倍の誤差が生じた。O3は紫外吸収法で計測し、OHはレーザー誘起蛍光法で測定した。O3については計測とシミュレーションで非常に良い一致を示したが、OHは誤差が比較的大きかった。しかし諸々の誤差要因を検討した結果、OH密度の誤差も許容範囲内であるとの結論を得た。この結果はJournal of Physics Dに掲載された。 次に、光解離で発生する準安定O2(a)密度を計測するため、最初に実験が容易な低圧水銀UVランプの光解離で生成したO2(a)密度を赤外発光分光法で計測した。その結果、計測値はシミュレーションと2倍の誤差で一致し、O2(a)密度計測法の確立に成功した。この結果はJournal of Photochemistry and Photobiology Aに掲載された。 本手法が実際に医療に使えるかどうかを検討するため、患部の殺菌を模擬した寒天培地上の殺菌実験を行った。その結果、加湿ヘリウムを使った実験での殺菌に成功した。OH, H, Oの3つの活性種のいずれかが殺菌に効いているところまでは判明したが、3つのうちのどれが効いているかまではまだ絞り込めていない。この他、本研究はプラズマ医療とも密接に関係しているため、プラズマ医療の実験もいくつか行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度から真空紫外光源の製作に手間取り時間がかかってしまったものの、これまでに(i) 真空紫外法による活性種生成装置の作成、(ii) 真空紫外法のシミュレーションの作成、(iii) 真空紫外法により生成した代表的な活性種、O3とOHの密度計測とシミュレーション結果の比較、(iv) 殺菌実験の成功の4点を達成することができた。特に最後の(iv)は、本手法が実際の医療に利用できる可能性を示すことができた点で大きな成果である。本手法はまったく初めての試みであるため、医療効果があるかどうかは実験をやってみなやければ分からない状況であった。したがってこの(iv)は、本研究全体を通して最も困難かつ最も大きなステップであり、これに成功したことは本研究を大幅に進展させたといえる。また、シミュレーションの開発も順調に進んでおり、活性種密度の計測値とシミュレーション結果に数倍の誤差はあるものの、おおまかな密度を計算することはすでに可能である。これは反応が複雑なプラズマ医療では困難なことであり、本手法の特に医療原理解明の容易さを実際に示すことができた大きな成果である。比較対象であるプラズマ医療の研究も含めると英文ジャーナルの投稿論文は7つあり、順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で開発した真空紫外法が、患部の殺菌に有効であることを前年度までの研究で示すことに成功した。そして、OH, H, Oのいずれかの活性種が殺菌に寄与していることを示した。しかし活性種密度のレーザー計測結果とシミュレーション結果が精度よく一致せず、どの活性種をどの程度投与すると殺菌効果が得られるかという、治療原理の定量的な評価がてきていない。今後は、この真空紫外法の殺菌への適用をさらに進め、治療原理の定量的な評価まで踏み込んだ研究を行う。そのために殺菌実験を進めるとともに、活性種密度のシミュレーションと計測をさらに推し進める。具体的には真空紫外法で生成される9種の活性種のうち4つの活性種、OH, O3, 励起酸素種[O2(a), O2(b)]の密度を、それぞれレーザー誘起蛍光法、紫外吸収法、赤外発光分光法、可視光発光分光法で計測し、シミュレーションとの比較を行う。そして、各活性種密度と殺菌率の相関を調べ、治療原理の解明を行う。 真空紫外光源には、Xe2エキシマランプ(172nm)を用いる。石英管に流れる混合気への光の照射距離を変化させて活性種密度を測定すれば、活性種がどの程度の速度で生成されるかを測定することができる。また、光照射が途切れる位置から活性種密度が減少する様子を測定すれば、各活性種の寿命を測定できる。これらのデータをシミュレーション結果と比較する。 真空紫外法は患部の殺菌の他に、がん治療や止血にも利用できると推測される。真空紫外法のもととなるプラズマ医療が、そのような治療に有効なためである。今後は患部の殺菌に関する研究を中心として進めるが、余力があれば、がん治療や止血への適用可能性も調べる。プラズマ医療の研究も継続する。本手法はプラズマ医療に代わる手法として提案したものであり、プラズマ医療との比較は必須である。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度にエキシマランプの作製が遅れ、そのために予算執行が遅れた。前年度は順調に進んだものの、初年度の遅れの分だけ、予算執行の遅れにつながっている。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度、ようやくエキシマランプを使った装置が組みあがり、殺菌実験にも成功した。来年度は順調に研究が進展することが期待され、寿命の短いランプの追加購入、レーザー計測用の光学部品、高圧ガス、バイオ実験消耗品などを購入する予定である。
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備考 |
なし
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