研究課題/領域番号 |
25289084
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
松井 裕章 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (80397752)
|
研究分担者 |
蓮池 紀幸 京都工芸繊維大学, 工芸科学研究科, 助教 (40452370)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 酸化物半導体 / 量子井戸 / 偏光光学 / 光電機能 / 紫外 |
研究実績の概要 |
本研究は、量子井戸界面の結晶対称性の人工制御による新規な光学機能を創出する。ZnOは低環境負荷・安価な酸化物半導体として注視されている。本課題は、ZnO系量子井戸界面に結晶対称性の破れを導入し、量子井戸内の分極・電子構造を変調させ、高い偏光性を示す光電変換を創製する。平成26年度(2年目)は、特に、量子井戸内の格子歪と電子バンド構造(価電子帯)の相関に着目し、バンド端の励起子遷移に伴う偏光性に着目した。 パルスレーザー堆積法を用いて、異方的格子歪を内包した非極性ZnO薄膜を作製した。X線回折及び顕微ラマン分光計測から、結晶対称性がウルツ構造の6回対称性(C6v)から2回対称性(C2v)に構造対称性の低下を確認した。バンド端吸収の偏光特性は、ZnO薄膜試料内の導入された格子歪に相関し、高い偏光特性は面内圧縮歪が試料内の導入された際に達成された。この実験結果をkp摂動法に基づいた理論計算から検証した。スピン・軌道相互作用まで考慮した電子バンド構造計算から、面内圧縮歪は高い偏光性の実現に必要であることが理論的にも同様に考察された。実験的に得られた偏光性能指数は、バンド端吸収の光透過率の偏光度合いを評価することで決定した。その結果、約20度程度の性能指数を示したが、理論的に得られる最大の偏光性能指数は45度であり、半分程度の性能指数しか得られていない。これは面内圧縮歪の量に強く依存しており、大きな格子歪を導入することで更に高い偏光性能が得られることが期待される。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度(H25年度)及び2年目(H26年度)において、非極性ZnOにおける面内格子歪と光学機能の相関について、実験的・理論的に考察を実施してきた。バンド端励起に関する発光及び吸収特性に関する偏光特性に関する研究成果は、3本の査読付論文として出版されており、研究成果の進度は概ね順調である。特に、kp摂動法に基づいた電子バンド構造の理論的考察は、実験結果の妥当性の検証に重要な役割を果たした。系統的に変化させた面内格子歪をZnO薄膜試料内に導入できた成果は、本研究の重要な課題の一つである“結晶対称性の制御と偏光機能の相関”の解明に寄与し、高い偏光性能を示すために必要な試料作製条件を見出すことに成功した。高い偏光性は、高い偏光光電機能と関係があるため、之までの研究成果は最終年度(27年度)に向けて十分な結果であると言える。上記の実験成果から、2年目の後半時期において、面内圧縮歪を導入したMgZnO/ZnO量子井戸試料を作製することも可能になった。これは、ZnOの結晶格子がMgZnOの結晶格子よりも僅かに大きいことに起因する。現在のZnO薄膜(単層膜)における光電変換は、数%程度あるが、来年度において実施する量子井戸試料や表面プラズモン励起支援による高い光電変換機能を得られる可能性がある。
|
今後の研究の推進方策 |
最終年度(H27年度)は、非極性MgZnO/ZnO量子井戸試料における偏光光電機能、及び表面プラズモン励起による光電性能の向上を実証する。量子井戸試料は、パルスレーザー堆積法を用いて作製する。X線回折や顕微ラマン分光を用いて、作製した量子井戸試料の結晶性評価や格子歪を計算する。更に、量子井戸内の偏光励起における光学選択則は、kp摂動法に基づいて理論的に考察する。一方、金属ナノ構造体は、ナノインプリント技術を用いて、量子井戸の試料表面上にトップダウン的に形成する。金属ナノ構造体の表面プラズモン励起の光学的性質は、有限差分時間領域法(FDTD)に基づいた3次元電磁界計算から検討する。本年度の後半において、金属ナノ構造を付与した量子井戸試料を用いて光電機能を評価する。金属から半導体層(量子井戸)への光エネルギーダイナミクスを明らかにし、光励起効率の向上を目指す。光電測定は、金属・酸化物・半導体のMIS構造を採用する。光電機能と光エネルギー移動のダイナミクスの相関を解明し、効率の良い光電変換システムの形を見出す。
|