研究実績の概要 |
イオンの影響を一気に明らかとするため,価数やイオン半径が異なる様々なイオンを網羅的に評価してナノ流路内のイオン分布構造の解明に取り組んだ。KCl, NaCl, LiCl, MgCl2, AlCl3をサンプルに用い,アニオンはCl-で共通とした状態におけるカチオンの価数およびイオン/水和半径の違いが,イオンの移動度と結果として得られる電流値に対してどのように相関するかを調べた。その結果,10-5M付近の濃度を境にして,高濃度側と低濃度側で異なるトレンドを示すことが明らかとなった。10-5M以上の高濃度側における溶液抵抗の実測値は,抵抗値の高い順にLiCl > NaCl > MgCl2 > KCl > AlCl3の順番であった。これはDebye-Huckel-Onsager式により求めた理論値と良い一致を示すことを明らかとした。 さらに電気二重層がオーバーラップする程に細いナノ流路内では,流路表面からの強い静電的拘束や壁面に衝突するなどにより拡散が制限されるため,バルクに比べて高い粘度を示すことが予想される。本測定における低濃度側がこの条件に当たり,例えば,519nm幅の流路に対し77nm幅の流路では,K+の粘度は約2.5倍,Al+に関しては約3倍の粘度を示した。すなわち,低濃度側の抵抗値は,ナノ界面空間特有の粘度変化によるものであることが明らかとなった。さらに低濃度側では内部空間が電気二重層で占められるので,程度の差こそあれ表面電荷を打ち消すカウンターイオン(この場合はカチオン)でナノ流路内が占められていると考えられ,Grahameの式で見積もった表面電荷量をDebye-Huckel-Onsager式にフィードバックして抵抗値に換算したところ,ナノ流路表面の表面電荷に制限された抵抗値が得られ,低濃度側における電気二重層のオーバーラップ状態の抵抗値と非常に良く一致することを明らかとした。以上,静電力だけでなく流体の流れ場の影響まで含めたイオン分布構造まで踏み込んで明らかとすることに成功した。
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