研究実績の概要 |
ナノメートルサイズの断面を持つナノ流路では,流路幅が壁面付近の固液界面に形成される電気二重層幅と同じオーダーとなる場合があり,場合によっては内部空間の全てが電気二重層に埋もれてしまう特殊な空間となるため,イオン分布や移動度はバルクと異なる事が予想される。ナノ流路における電気測定の高感度化・高精度化にあたっては,こうしたナノ空間の構造の理解が重要となる。そこで本研究では,電気インピーダンス測定によりナノ流路内の物理構造を直接測定し,バルクとの違いを明らかとする。さらに,ナノ流路の内部空間を電気等価回路でモデリングする解析手法を確立し,実験と解析手法の両面から,ナノ流路内における電気的1分子測定の高感度化と高精度化にアプローチした。 まず測定デバイスを作製し,電気インピーダンスによる直接測定からナノ流路内のイオン分布と輸送現象を評価した。具体的には,過去の研究例が多く,参照データが豊富なKCl溶液をサンプル溶液として用い,KCl濃度を1nM~1Mの範囲で変化させつつ,電極ギャップ(流路幅)がそれぞれ数10nm~1μmのナノ流路で電気インピーダンスを測定した。さらに,同様の実験を流れがある状態でも実施し,流れの有無がナノ流路内のイオン分布に与える影響も調べた。その結果,静的な状態におけるイオン濃度が電気二重層の厚さに与える影響を明らかとした上で,かつ,流れがあると連続的にキャリアイオンが供給されるため,長期連続的な測定が可能となること,及び「流れが無い」状態に対して電気二重層の厚さが薄くなるという結果を得ることが出来た。 さらに,KCl,NaCl,LiCl,MgCl2,AlCl3などの水和半径や価数の異なる様々なイオンを網羅的に測定し,水和半径や価数が電気二重層の厚みに与える影響,およびナノ流路内の導電率や誘電率に与える影響を網羅的に評価し,その基礎現象を明らかとした。
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