研究課題/領域番号 |
25289111
|
研究種目 |
基盤研究(B)
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山本 博資 東京大学, 新領域創成科学研究科, 教授 (30136212)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 情報理論 / フィードバック通信 / 誤り指数 / 信頼性関数 / 国際研究者交流 / ロシア |
研究概要 |
本研究では,フィードバック通信路が利用できる通信システムに対する誤り訂正符号の理論限界を明らかにすると共に,効率のよい新しいHybrid-ARQ符号化方式の提案とその性能評価を行うことを目的としている.前者に関しては,非常に難しい問題として知られている「雑音のあるフィードバック通信路を用いた受動フィードバック・固定長符号化方式」を用いる場合に対する誤り訂正符号の誤り指数(信頼性関数)の下界の導出を検討している. 我々が提案したフィードバック通信方式は,フィードバック情報に基づき符号の切換えを行う方式であるが,従来の方式では,フィードバック情報に基づき選択する最も信頼性のあるメッセージを2個または3個選択していた.これに対して,平成25年度は,フィードバック情報に基づき選択する最も信頼性のあるメッセージ数が2, 3, 4の場合の3つのケースに拡張し,符号切換え後の新しい符号化法の提案を行うと共に,その提案方式の性能を理論的に評価した.その結果,フィードバック通信路の雑音が小さいときに,従来の符号化法ではフィードバック通信路を使用しない場合に比べて誤り指数を23.6%しか改善できなかったが,提案符号化方式では,フィードバック通信路を使用しない場合に比べて33.3%まで改善できることが分かった.これらの成果をまとめ,国際シンポジウム(IEEE International Symposium on Information Theory)に投稿した. 同定符号において,無雑音フィードバック通信路が利用できる場合に符号化レートを任意に大きくできることが知られているが,その特性を容易に達成できる符号化方式を提案した.この成果も,上記とは別の論文として国際シンポジウム(IEEE International Symposium on Information Theory)に投稿した. 効率のよい新しいHybrid-ARQ符号化方式の検討に関しては,Polar符号を用いる方式の基本的な符号化方式の検討を行っている.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」の欄で述べたように,雑音のあるフィードバック通信路を用いた受動フィードバック・固定長符号化方式に関して,符号を途中で一度切り替えた後の符号化法をうまく工夫することで,誤り指数(信頼性関数)を従来方式に比べて大きく改善できることを示した.また,同定符号に対して,無雑音フィードバック通信路が利用できる場合に符号化レートを任意に大きくできる具体的な符号化方式を提案した.これらの成果を,それぞれ国際会議論文として投稿した.これらの項目に関しては,当初の研究計画より早くよい成果が得られている. 一方,効率のよい新しいHybrid-ARQ符号化方式の検討に関しては,Polar符号を用いる方式の検討を開始しているが,平成25年度は上記の研究に重点を置いたため,こちらの研究は当初の研究計画より少し遅れている. これら全てを含めた達成度としては,「おおむね順調に進展している」とい判断できる.
|
今後の研究の推進方策 |
平成26年度は,「研究実績の概要」で述べた平成25年度の2つの成果((a)雑音のあるフィードバック通信路を用いた受動フィードバック・固定長符号化方式に関して符号を切り替えたのち信頼性の高い2~4個のメッセージを巧く符号化する拡張方式の成果と,(b)同定符号に無雑音フィードバック通信路を用いる符号化法の成果)に関して,それぞれ国際シンポジウムで発表すると共に,その符号化方式や理論をより拡張し,また証明をより分かりやすくなるように工夫・洗練したのち,学術論文誌に投稿するための論文を執筆する. また,(a)の方式に関しては,通信路が加法的ガウス性雑音の場合に対して符号の切換え後に利用する信頼度の高いメッセージ数を5以上に増やす一般的な場合について検討すると共に,通信路が二元対称通信路の場合についても検討を実施する. Polar符号を用いた新しいHybrid-ARQ方式に関しては,基本的な符号化/復号化アルゴリズムを決定する.受信系列から情報系列の信頼度を理論的に推定したのち,その推定値から受信系列の各ビットの信頼度を逆向きに計算し,信頼度の悪いビットのみを再送することで効率のよいHybrid-ARQ方式を構築することを目指す.理論およびシミュレーションによりその性能を評価する.
|
次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は,理論研究(つまり,雑音フィードバック通信路を用いて大きな信頼性関数(復号誤り指数)を達成する新しい通信方式とその理論的な性能評価)を優先して行ったため,予定より物品費および人件費が少なく済み,その分未使用額が生じた. 平成25年度の未使用額は,平成26年度に開始するPolar符号を用いたHybrid-ARQ方式のシミュレーション用のパソコン購入やそのソフト作成のための人件費等に使用する予定である.
|