研究課題/領域番号 |
25289114
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
和田山 正 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20275374)
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研究分担者 |
三村 和史 広島市立大学, 情報科学研究科, 准教授 (40353297)
泉 泰介 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20432461)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 符号理論 / 確率的手法 / グラフ / ランダム |
研究概要 |
平成25年度の本研究課題に関する研究実績を下記の通り報告する。 [1] グループテスト方式に関する情報理論的解析:本課題については、基本的な部分はほぼ終了した。正しく復元が行われるための条件に関して、ファノの不等式に基づく誤り率下界と典型系列復号器の考え方に基づく誤り率上界を証明した。これらの理論は、LDPC符号の性能解析の理論に強く影響を受けており、本研究課題の狙いとする「符号理論の他分野への展開」のひとつの実証事例になったことと考えている。本研究成果の一部は、25年7月にイスタンブールにて開催されたIEEE ISITにて発表が行われた。現時点では、研究の総括ならびに論文準備の最終段階に入っている。[2] 母関数的手法に基づくランダムグラフの最小カットに関する解析:本研究においては、次数分布を指定するランダムグラフアンサンブルにおいて、その最小カットの統計的振る舞いについて理論的な研究を行った。最小カットは、ネットワークの通信路容量と深く関係する量であり、情報通信の文脈では非常に重要なグラフの特徴量である。本研究では、カット重みと符号の重み分布の関係を利用し、LDPC符号アンサンブルの平均重み分布の結果を拡張することにより、最小カットの確率的評価手法を見出した。類似の結果は見当たらず、工学的見地からみて、ネットワーク通信の文脈で貢献ができたと考えている。本研究もその成果の一部を2013 IEEE ISITにて発表している。また、その内容は論文にすでにまとめて投稿済みである。 以上が研究成果に関する実績報告であるが、本研究プロジェクトの活動として、定期的なセミナーを開いたり、プロジェクト参加者間での成果報告会を催すなど意見交換やアイデアの交換の場を多く作り出すことができた。来年度以降の研究活動に良い影響を及ぼすものと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね順調に進展していると認識している。主な理由としては、当初計画していたグループテストに関する理論展開が一段落したこと、また、ランダムグラフ理論への展開も最小カットの部分に関しては論文投稿を終えたことが挙げられる。また、当初計画にはなかった興味深いアイデアといくつかの萌芽的技術が生まれたことは来年度以降の進展を考えると良いニュースであると考えている。例えば、現在、研究代表者の和田山のグループで行っているランダムグラフにおける頂点被覆問題の確率的解析は、非常に組み合わせ理論的色彩の強いものである。一方、連携研究者の三村は、統計力学的手法に基づいてハイパーグラフの頂点被覆問題について検討を行っている。現在は、並行して理論展開を両者が進めている段階だが、得られた成果等を相互に比較していくことで新しい発見等が期待できるのではないかと考えている。また、当初計画ではそれほど重視していなかった研究で大きく伸びたものがいくつかある。そのひとつはInvertible Bloom Look Up Tables (IBLT)の性能解析である。IBLTは、分散環境で力を発揮するデータ構造であり、故障や誤りに対してロバストであるという特長を持つ。IBLTにおける一番重要な操作であるリストアップ操作の性能解析をLDPC符号のストッピングセット解析を応用できることを示した。すでにこの結果についても投稿済である。一方、アルゴリズム分野への展開は現在、ホログラフィック変換に基づいた集合被覆問題の指数時間解法という形で連携研究者の泉と和田山が議論を進めている段階であり、平成26年度の進展が望まれる。国際会議投稿、論文投稿も比較的順調に進んできており、成果の公開という観点からも、計画はほぼ順調に進展してきているのではないか、と思われる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進の方策は次のとおりである。 比較的順調に研究が進んでいる従前の研究計画に加えて、新たに重点検討課題として、(a) ホログラフィック変換に基づく指数時間アルゴリズムの構築(泉-和田山)、(b)ネットワーク時代に向けたインデックス符号の理論(和田山)を加えて検討を進めていきたい。特に(b)は、グラフ理論と符号理論の両方の色彩を持つ符号化理論であり、今後ますますその重要性が高まることが予想されることから、新たに検討を開始したい。平成26年度は、インデックス符号に関して顕著な業績を持つEstoniaのVitaly Skachek博士を日本にお招きし、徹底的な議論を交わすことで本研究課題の加速的な立ち上げを行っていきたい。また、同博士はLDPC符号の復号に関しても深い造詣をお持ちなので、アイデアの交換や研究上の議論を行い、本課題の広さ方向への展開を目指したい。また、符号理論やアルゴリズム理論の分野で知られていたホログラフィック変換の応用として、グループテストにおける効率の良い推論アルゴリズムの開発を開始した。当初計画ではホログラフィック変換については、重きを置いていなかったが、その本グループでは、その重要性の認識を深めつつある。さらに連携研究者の三村は、圧縮センシングにおける超解像アルゴリズムの開発なども行っている。「符号理論」を軸として圧縮センシングとの関連分野で研究の余地を見つけていくことも一つの課題と考えている。平成25年度と同様にセミナー・勉強会・報告会などを通して、互いの興味・アイデアを伝えることのできる場を継続的に作り出すことも新しい発見を得るために肝要だと考えている。
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