研究課題/領域番号 |
25289182
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
田村 哲郎 東京工業大学, 総合理工学研究科(研究院), 教授 (90251660)
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研究分担者 |
又吉 直樹 独立行政法人宇宙航空研究開発機構, 航空プロジェクトグループ, 主任研究員 (90358680)
片岡 浩人 株式会社大林組技術研究所, 環境技術研究部, 上席研究員 (40393590)
吉川 優 大成建設株式会社技術センター, 防災研究室, 研究員 (60393667)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | LES / 遠隔観測 / 耐風設計 / 風速分布 / 乱れの強さ / キャノピー / 都市 / 植生 |
研究概要 |
建築構造物に与える風作用の影響を適切に評価することは、建築構造物の耐風安全性を確保する上で重要である。耐風設計を行う際に用いられる設計風速は、建物に作用する風荷重を鋭敏に変化させることから、その設定には十分な配慮が必要である。台風時あるいは春の移動性気圧に伴って発生する強風に対して耐風設計を行う場合、それぞれの強風に応じた強風の空間分布、乱流構造の適切な把握は安全性実現のための重要事項であるが、観測データが十分でないことから現在のところ、あいまいな取り扱いになっている。特に強風特性は、下方の地表被覆状態によって決定されるが、下部で生じる空気力学的な抵抗を正確に見積もることで、その上方での速度欠損が把握されることになる。強風の鉛直プロファイルを評価するには、両者の関係性を正しく認識する必要がある。本研究では、上空風に対してライダーなどの遠隔観測および建物・植生の再現モデルによるLES数値解析で風速分布を再評価する一方、建物の高さ付近での強風のキャノピー内乱流構造を、非構造格子系LESを用いて算定し、地表ごく近傍領域での設計用の風速分布を提示する。さらに都市市街地の建物高さによって形成されるスカイライン以下の領域での乱流構造を精査し、キャノピー層内部での乱流構造の普遍的な特性を抽出し、定式化あるいは普遍的表現方法の提示を実施する。さらに、成果の実用的な展開として、より広い範囲の鉛直領域での異なる乱流構造を対象に、統計値の現象論的不確定性も定量化し、風荷重評価でのばらつきおよび適切な評価時間・平均数を明確化する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の達成度は、以下のことが実行できたこと、さらには課題とそれを解決する見通しが把握できたことから、概ね順調に進展していると位置付けた。 ドップラーライダーならびに航空機による上空風の観測データを整備し、都市域における平均風速でのべき指数を気象学的安定度も考慮しながら検討し、乱れの強さの鉛直分布も整理した。さらに気象スケール乱流場のダウンスケールを実施することで、より広い周波数帯での変動特性を明らかにした。また、得られた乱流場の特性を吟味することで、流入部での乱流場として再現・使用できることを示した。 また、実在市街地モデル模型での実験データを整理し、観測および計算の検証用データを生成し、都市域上部に発達する乱流境界層の風速の時空間構造を検討し、明らかにした。地表被覆再現モデルのLESを実施し、現行耐風設計用風速分布の問題点を抽出することをねらいに粗度パラメータと風速鉛直プロファイルの関係性を明らかにした。現行の耐風設計で示されている限定高さに注目し、キャノピー層内外の風速分布特性を解明した。 また、建築物が密集する地域で形成される都市キャノピーを対象に、建物形態を再現した建築物モデルを対象にLESを実施し、屋上近傍あるいは建物群落内部の乱流構造を明らかにした。ただし、風洞実験データに基づくLES計算結果の検証は順調に進められているものの、公開可能な市街地の観測データの整備が現状では限定され、実際の都市域におけるLESの解析結果の検証とその公開が必ずしも十分でない。検証方法として、風速データに限定せず、個別の建物応答などの観測データの導入も考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
初年度についてはほぼ予定通りの成果が得られた。今後は実市街地を対象とするLES結果と多点風洞実験結果・風観測結果との比較を精緻に実施し、より精度の高いモデルへと向上させるようにする。得られた都市域強風データの精度を確認するとともに都市キャノピー直上部から内部までの乱流構造に対し、空間平均操作に基づき鉛直構造を示し、都市キャノピー層内外での乱流構造の普遍的特性を抽出することでその物理的な意味の理解を深める。さらに、WRFあるいは遠隔観測によって得られた上空の乱れ構造を分析することで、それらを形成する熱的要因、気象学事象による特性を分離し、モデルの適用範囲を拡張する。特に突風事象については境界層特性とは別途その特殊性を分析する。 一方、実用的な観点から、観測およびLES解析から得られた上空ならびにキャノピー層の知見に基づき、設計用風速分布の提案を行う。また、地表被覆形態と広域乱流構造との関係を解明するために、抽出された地表被覆形態の力学的効果による水平方向の乱流特性に関して、その広域性を解明し、地表形態の一様性と乱流構造が維持される範囲の関係を考察する。さらにキャノピー層内部の乱流構造の普遍性を理論的に確認するため、上空と地表近傍キャノピー間の乱れエネルギー輸送挙動を解明する。 また研究成果の適用範囲のより広い展開を考え、都市域の中心部および住宅地域を対象とした風速の鉛直分布のばらつきを求め、こうした不確定性に関する定量化を行う。さらに定量化された風速のばらつきの範囲内で風荷重評価を実施し、不確定性に基づく風荷重評価と統計値算定法を構築する。特に、風速・荷重の統計値を算定する上での適切な評価時間・アンサンブル平均の実施数を明確にする。また、これまで得られた情報をまとめ、建築物の強度情報を組み合わせることで、リスク評価まで実施し、設計風速のばらつきまで考慮した減災のための方策を示す。
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次年度の研究費の使用計画 |
データ整理用消耗品費が当初予定より安く購入できたため。 消耗品に利用する予定である。
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