本研究は、多種多様な観測データを継続的に収集・分析することなどにより、建築利用者特性にあわせて多目的最適化方法を設定し、建築空間性能を個々の利用者特性に即して設定された目標にすりあわせ調整していく技術が成立するため、以下のことがらに関する学術理論の形成に緒をつけることを目指すものであった。1. 観測データ等をもとに利用者特性を推定する手法 2. 利用者特性に即した多目的最適化による建築空間性能の調整目標の設定 3. 設定された建築空間調整目標に経時的にすりあわせていくためのアルゴリズム 観測データ等をもとに利用者特性については、多数の利用者の行動の集積的結果としての利用者特性、及び、個人または少人数から成るグループの利用者特性を場合分けして整理することとした。多数の利用者の行動の集積的結果としての利用者特性については、行動の集積的結果として評価指標群の線形和として捉えることを試みた。一方、個人または少人数から成るグループについては、住宅におけるケーススタディ結果を踏まえ、評価指標群の線形和だけで捉えるという前提がそもそも妥当であるかについても疑問が生じたため、卓越的評価指標を利用者特性の代表指標として扱うこととし、評価指標群の線形和と併用できる、卓越的指標を検討・探索した。 多目的最適化による建築空間性能の調整目標の設定については、目標仮設定→空間環境調整→分析→評価→目標設定見直しを繰り返すことにより、ヒューリスティックに目標設定と環境調整をすりあわせていく道筋を定め、ケーススタディにあてはめ検討した。これをもとに、空間調整目標に経時的にすりあわせていくための経時的に最適化していく論理的な手順を定式化した。この論理的手順は、すりあわせのためのアルゴリズムの基盤となることが期待される。
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