研究課題/領域番号 |
25289206
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
門内 輝行 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (90114686)
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研究分担者 |
守山 基樹 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (70534303)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 街並み / 景観まちづくり / 集合的活動システム / ノットワーキング / コミュニティ・ガバナンス / 空き家問題 / 空き家の利活用 / 記号論 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、多様な主体が協働する活動システムを結び合わせていく活動=ノットワーキング(knot-working)に注目し、ノットワーキングによる創発的な景観形成を可能にする景観まちづくりの方法論を記号論の視点から探求することである。具体的には、主に歴史都市・京都の都心エリア(修徳学区)をフィールドとして設定し、景観まちづくり活動を多様なまちづくり活動の中に組み込み、コミュニティのエンパワメントを図ることを通して、豊かな関係性のデザインを内包する魅力的な景観の実現を目指すアクション・リサーチを展開する。 昨年度は、過去4年間わたる全方位カメラによる街並み景観の映像記録をもとに、竣工・着工・解体・空き地・改修・転用・空き地化・駐車場化という8つの景観変化のカテゴリーを抽出し、修徳学区という都市エリアに働いている開発と保存のダイナミクスを解明することを試みた。 本年度は、①景観変化のマネジメントを行う集合的活動システムのあり方を探求するとともに、②景観まちづくり活動を通じてクローズアップされてきた「空き家問題」に焦点を絞り、コミュニティの成員が協働して空き家問題の解決に取り組む活動を展開した。空き家の存在が美しい街並み景観を破壊し、周辺住民の安全・安心を脅かし、まちの活性化を阻害するわけで、空き家問題に取り組むことが、景観まちづくり活動を一層深いレベルで推進することになることを示した。 具体的には、現地調査、アンケート調査、ワークショップ等を実施し、修徳学区内に43軒の空き家が存在することを特定し、ワールド・カフェ方式のワークショップも行って、コミュニティの視点からみた空き家の新たな利活用の可能性を探求した。これらのノットワーキングの活動を通して、空き家問題への取組が、景観まちづくり活動を推進するだけでなく、コミュニティのエンパワメントに繋がることを明らかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
伝統的街並みには、有限の要素を組み合わせて無限の景観のバリエーションを生成する仕組みが組み込まれているが、現代の街並みでは、多くの要素が関連づけられることなく並置され、混乱した景観が蔓延している。こうした景観の変化の根底には、コミュニティの崩壊という社会システムの変容が潜んでいるのである。 こうした観点から、景観まちづくり活動を安全・安心のまちづくりやまちの活性化への取組などの多様なまちづくり活動と結び付けるノットワーキングが重要な意味を持つことを指摘し、本年度はノットワーキング活動の一つとして、コミュニティで協働して空き家問題に取り組むことにしたのである。その結果、空き家が発生するメカニズムを解明し、空き家の発生を予防する方策を検討するとともに、空き家の新しい利活用の可能性を提示することができた。 さらに、空き家の所有者へのアンケート調査や聞き取り調査を行うことを通して、通りに面して並び建つ2軒の空き家(町家)の所有者から、新たな利活用の可能性を示してほしいという依頼を受け、次年度に町家のリノベーションプロジェクトをスタートさせることになったのである。これは具体的な空き家のデザインを通して、創発的な景観まちづくり活動を展開することであり、コミュニティのエンパワメントに繋がることは疑いを入れない。こうしたプロジェクトの実践にまで到達したことから、研究が当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
①景観まちづくりと空き家問題への取組のノットワーキングを推進する。特に本年度は、コミュニティによるまちづくり活動の一環として、昨年度の空き家問題への取組を通じて空き家の所有者から依頼された2軒の空き家(町家)について、新たな利活用の可能性をデザインするプロジェクトを推進する。 ②空き家問題への取組には、コミュニティセクターだけでなく、公共セクターや民間セクターの様々な専門家の支援が必要となることから、空き家(町家)を再生するプロジェクトを実践的に推進する上で必要となる新たなまちづくり活動のための社会的な仕組み・制度・組織を構築する課題に取り組む。 ③空き家問題に取り組むだけでなく、安全・安心のまちづくりやまちの活性化といった多様なまちづくり活動と景観まちづくり活動を相互に結び付ける集合的活動を展開することによって、コミュニティの学習と成長を促すとともに、そのエンパワメントを推進する。京都市都心部の修徳学区のほかに、郊外部の嵐山地区や大原地区においても、景観まちづくりを含むまちづくり・里づくりの実践活動に取り組む。 ④以上を踏まえて、ノットワーキングの考え方に基づく創発的な景観まちづくりの方法論を構築し、その研究成果を広く社会に向けて発信する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、京都市修徳学区において、景観まちづくり活動の一環として「空き家問題」に取り組み、学区内に存在する空き家として43軒を特定することができた(2014年12月現在)。そして、コミュニティの人々と協働して、空き家の所有者にコンタクトをとり、空き家の利活用の可能性についてお話しを伺ったが、その際、ある所有者から空き家となっている町家2軒について、新たな利活用を可能にするデザインに取り組むことを依頼された。 そこで、次年度に空き家(町家)2軒のデザインプロジェクトを推進することにしたが、そのためには当初の研究計画では想定していなかった町家の実測調査、利活用の可能性を検討するデザインワークショップ、基本設計と実施設計、法制度や経済性の検討などに取り組む必要があることが分かった。その時点で、基金分を次年度に繰り越すこととした結果、次年度使用額が発生したのである。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は、京都市修徳学区の街路沿いに建つ2軒の空き家(町家)について新たな利活用を構想し、その実現に向けてデザインを推進する予定である。そのために、町家の実測調査、コミュニティによるワークショップの開催、模型や3次元CG・図面等の作成、ファイナンスや相続税などに詳しい専門家との協働、様々な行政手続きなどを実施する必要があり、様々な経費が必要になる。 そこで。次年度の予算としては、繰り越し分を含めて約330万円を予算として計上し、支出の増大が見込まれる人件費・謝金、模型材料等のその他経費について、通常より多めの予算(それぞれ50万円、60万円程度)を確保し、プロジェクトの実践に備えている(次年度が本研究の最終年度に当たるため、その他経費には、研究報告書の作成に要する費用も組み込んでいる)。
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備考 |
京都市修徳学区で取り組んでいる「空き家プロジェクト」が京都新聞に紹介された(京都新聞 2015年3月6日朝刊 空き家問題を考える-04[まちづくりとして取り組む空き家対策])。
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