研究実績の概要 |
非化学量論組成Ni基ホイスラー合金は磁場印加に伴い常磁性マルテンサイト相から母相強磁性相へ構造相変態を起こす。その際に、単に磁化が大きく変化するだけでなく、巨大磁気抵抗効果や巨大磁気熱量効果も示し、このようなドラスティックな物性変化は電子状態の変化に起因すると考えられている。本研究では、Ni基ホイスラー合金の電子輸送特性、および比熱測定を系統的に行うことにより理論計算からのアプローチが困難なマルテンサイト相の電子状態を調べ、磁場誘起構造相変態に伴う巨大磁気抵抗効果の起源解明を目的としている。 申請時の予定では、マグネットや光交流法による比熱測定装置を購入し、ホール効果測定や室温以上の温度域における比熱測定を行うことを計画していたが、研究経費が大幅に削減されたことで、購入装置や実験計画の変更を余儀なくされた。結果、単結晶作製のためにブリッジマン式高周波単結晶育成炉を購入し、試料作製の条件出し等を行っていた。従って、ホール効果や室温以上での比熱に関する調査は行えなかったが、最終年度は磁場誘起逆変態前後の磁気状態を直接観察する目的で、パルス磁場中磁気円2色性の測定を放射光施設(SPring-8)にて行う機会を得た。Ni-Co-Mn-Inの短冊状試料を装置の高真空チャンバー内にセットし、試料をチャンバー内で劈開して清浄面を得た。Ni, Co, Mn各元素のX線吸収スペクトルをパルス磁場印加中で測定を行い、12Tの磁場下でのスペクトルや磁気円2色性、元素別ヒステレシスを得ることが出来た。磁気円2色性においては、弱磁性マルテンサイト相から強磁性母相への変態に伴いスペクトルの強度に大きな変化が見られた。元素別ヒステレシスにおいても磁場誘起逆変態に伴うヒステレシスが見事に観測された。
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