研究課題/領域番号 |
25289219
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
長谷川 正 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20218457)
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研究分担者 |
丹羽 健 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (40509030)
曽田 一雄 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (70154705)
亀卦川 卓美 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 准教授 (70195220)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 遷移金属窒化物 / 超高圧合成 / 単結合窒素 / ダイアモンドアンビルセル / 超臨界流体 |
研究概要 |
単結合窒素と重遷移金属(4d,5d遷移金属)から成る遷移金属窒化物は,近年,ダイアモンドアンビルセル超高圧発生装置と赤外レーザー加熱を組み合わせた超高圧合成によって見出された新しい物質群であり,将来薄膜化することにより電子材料や超硬材料としても期待されている.しかしながら,合成技術上の制約から未だ系統的な実験研究はなく,相安定性や電子構造の理解は進んでいない.そこで本研究では,従来のレーザー加熱型超高圧合成システムとは根本的に異なり,メガバールという超高圧領域においても,系統的な合成実験とその場測定が可能なシステムを開発する.これにより,本物質群の相図を決定し,結合状態・結晶構造・電子構造の系統性を実験と理論の両面から明らかにするとともに,単結合窒素重遷移金属窒物の相安定性機構を解明する. 25年度の主たる計画内容は,超高圧高温研究に関する様々な高度な要素技術を組み合わせて,超高圧合成・その場測定システムの開発・確立であった.そこで,超高圧地球科学が専門の協力者を得て,代表者らが,現有のシステムをベースにして,メガバール領域での超高圧合成システムの開発・確立に成功した.さらに,分担者らが,現有のラマン測定装置をこのシステムに組み込み,超高圧高温その場ラマン測定による相変化の調査も可能なシステムとした.また,別の分担者らが,極微小な超高圧合成試料でも高精度の電子構造スペクトルが得られる測定技術を開発・確立した.このシステムを用いて,遷移金属窒化物の合成を試み,Ruの多窒化物などの新規遷移金属窒化物の合成に成功した.超高圧下でのラマン分光測定や放射光X線回折測定や回収試料の光電子分光測定などによって,新規遷移金属窒化物の結晶構造,圧縮挙動,相安定性,結合状態,電子構造などを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の最も重要な目的は,電子材料や超硬材料としても期待されている単結合窒素と重遷移金属から成る新しい遷移金属窒化物の発見である.しかしながら,合成技術上の制約から未だ系統的な実験研究はなく,相安定性や電子構造の理解は進んでいない.そのため,最初に果たさなければならない研究は合成システムと技術の確立である.これに対し,今年度では,超高圧地球科学が専門の協力者のもと,当初の計画とおり,超高圧高温研究に関する様々な高度な要素技術を組み合わせて,現有のシステムをベースにして,メガバール領域での超高圧合成システムの開発・確立に成功した.このシステムでは,現有のラマン測定装置をこのシステムに組み込み,超高圧高温その場ラマン測定による相変化の調査も可能なシステムとしており,本物質群の相図の決定,結合状態・結晶構造の系統性を実験的に解明するのに十分な性能であり,当初の計画とおり,次年度の研究を円滑に推進することが可能となった.電子構造の解明技術に関しては,放射光施設の利用と特殊な試料ホルダーの開発に成功し,当初の計画とおり,極微小な超高圧合成試料でも高精度の電子構造スペクトルが得られる測定技術を開発・確立することに成功した.これらのシステムや技術の開発に関する成功によって,当初の計画とおり,超高圧下での遷移金属窒化物の合成が可能となり,実際に,Ruの多窒化物などの新規遷移金属窒化物の合成に成功した.さらに,超高圧下でのラマン分光測定や放射光X線回折測定や回収試料の光電子分光測定などによって,新規遷移金属窒化物の結晶構造,圧縮挙動,相安定性,結合状態,電子構造などを明らかにすることに成功したため,これらの成果は当初の研究計画を十分に満たすものであった.また,当初の予定とおり,これらの成果を国内外の関連会議や学術論文として発表することができた.
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今後の研究の推進方策 |
初年度の成果と問題点を再度チェックし,目的達成のための合成・評価・解析・考察研究を推進する.合成に関しては,メガバールという超高圧領域を扱うため,合成物質次第では技術的な壁にぶつかることも考えられる.その際は,固体窒素単体のメガバール領域の研究などで顕著な業績があり,代表者らとすでに共同研究の実績がある海外研究者に技術的なサポートを要請して問題を克服する.さらに,実際にダイアモンドアンビルセルを製作している企業と綿密に連絡をとり,あらゆるノウハウを駆使して問題を克服する.各分野の専門家が常に有機的に連携して,実験研究に理論計算解析研究を加えて,系統的かつ包括的に研究を進める.確立したメガバール超高圧合成システムを用いて,重遷移金属窒化物の試料を系統的に次々と合成する.合成時に,高圧高温その場ラマン測定を行い,相変化や結合の変化を調査する.合成実験と同一条件でその場測定を行い,超高圧高温下での相安定性と結晶構造を解析する.開発したホルダーを用いて,XPS・UPS測定実験を行い,常圧回収試料の結合状態,特に窒素間結合と電子構造を解析する.常圧回収試料のTEM高分解能観察とTEM-EELS測定を行い,精密結晶構造解析と結合状態解析を行う.結晶構造を基に,第一原理電子構造計算プログラムwin2kを用いて電子構造と結合状態を解析し,各実験結果と比較・検討する.重遷移金属窒化物について,窒素間結合状態,メガバール超高圧高温下での相安定性,結晶構造,電子構造を包括的に解明する.同物質群の相安定性を結晶構造と電子構造の系統性から理解する.重遷移金属窒化物の系統的な合成と,相安定性と電子構造の解明において課題が生じ,研究の進捗に遅れが出る可能性がある場合には,単結合遷移金属窒化物の研究などで顕著な業績がありすでに共同研究を進めている海外研究者に無機化学の観点から助言をもらい問題を克服する.
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次年度の研究費の使用計画 |
上述のように,今年度では当初の計画とおり,超高圧高温研究に関する様々な高度な要素技術を組み合わせて,メガバール領域での超高圧合成システムの開発・確立に成功した.このシステムでは,超高圧高温下での相変化の調査も可能なシステムとしており,本物質群の相図の決定,結合状態・結晶構造の系統性を実験的に解明するのに十分な性能であり,超高圧下での遷移金属窒化物の合成が可能となった.実際にこれを用いて,Ruの多窒化物などの新規遷移金属窒化物の合成に成功した.このように,本研究で最も重要なポイントである合成システムと合成技術の確立について,比較的スムースに問題を克服することができ今年度の目的の達成に至ったため,使用予算を抑えることができた.また,この成果を踏まえ,次年度に多くの合成実験とそれに伴う評価・測定実験を推進することが可能となったため,その実験費用を見越して次年度に予算を繰り越すこととした. 上述のように,メガバール領域での超高圧合成システムの開発・確立に成功し,重遷移金属窒化物の系統的な合成と相安定性及び電子構造の解明の研究を格段に推進することが可能となったため,次年度に多くの合成実験とそれに伴う評価・測定実験を推進する.そのため,繰り越し予算はその実験費用に充当する.具体的には,前年度の成果を受けて,確立したメガバール超高圧合成システムを用いて,重遷移金属窒化物の試料を系統的に次々と合成する.合成時に,高圧高温その場ラマン測定を行い,相変化や結合の変化を調査する.合成実験と同一条件でその場測定を行い,超高圧高温下での相安定性と結晶構造を解析する.これらを創製し,様々な物性評価を行うためには,多くの消耗的物品が必要となるため,予算は主にこれに使用する.また,様々な物質系を扱うための情報収集や研究成果の発表の必要性もあり,これらを念頭において予算を使用する計画である.
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