棒状の金属ナノロッドはその形状異方性により特徴的な光学特性を有しており、様々な光学機能素子として応用が期待されている。本研究では、パルスレーザー光照射機能を有する超高圧電子顕微鏡(HVEM)を用いた原子レベルでの高分解能その場観察・解析を進め、金ナノロッドのレーザー光照射による励起過程とそれによって引き起こされる動的挙動を明らかにすることを目的とした。 本年度は、昨年度に開発したHVEM用3軸傾斜試料ホルダーについて、HVEMの操作デスクからPCを介してHVEM内に挿入した試料の方位を調整する機能を整備し、実験操作性を大幅に向上させた。 さらに、収差補正高分解能電子顕微鏡による走査透過像取得において、高速度走査像を自己相関で重ね合わせて試料ドリフトを補正する機能を実現し、金ナノロッドの高角度散乱環状暗視野走査透過電子顕微鏡(HAADF-STEM)像において原子位置を ± 5 pmの精度で決定できた。金ナノロッドは長軸が[001]方向の単結晶であり、その先端部では長軸方向には外向きに、それとは垂直の動径方向には内向きに原子が10 pmオーダー程度で変位していることが明らかになった。 HVEM内でのレーザー光照射その場観察と収差補正電子顕微鏡でのHAADF-STEM像観察を組み合わせることにより、同一のナノロッドのレーザー照射にともなう原子構造変化を追跡した。平均強度が7. 3 kJ/m2の波長λ=1064 nmのパルスを照射すると、多くの金ナノロッドは球形に変形し、内部は多重双晶構造へと変化した。多重双晶交差点付近の原子は正規の格子点位置から数10 pm程度変位しており、変位量は交差点からの距離にほぼ比例して減少することが明らかとなった。
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