研究課題
スレーター材料の特質を明らかにする過程で、関連物質の素性、特性を明らかにする研究を進めた。本年度はNaOsO3と関連が深いKOsO3の研究を進めた。合わせて新規スレーター物質の探索を進めた。KOsO3は合成の過程でK欠損が入りやすく、定比合成を目指したが、最終的には約16モル%のKが欠損した焼結体試料が得られた。その結晶構造、電気的磁気的性質を注意深く調べた結果、スレーター機構と直接的に関連する特徴は認められなかった。また、KOsO3と類似する結晶構造を持つBiOsO3についても、その磁気的電気的性質を調査したが、スレータ機構に関連する顕著な特徴は見られなかった。総合的に考察すると、KOsO3やBiOsO3は新規スレーター絶縁体の探索から遠ざかっているように思われた。探索指針を注意深く再検討する必要がある。特に、新規スレーター絶縁体の探索に関しては、第一原理的な計算手段を取り入れた物質予測が有効と思われるため、合成実験に特化した手法よりも、マテリアルインフォマティクス的なプロセスを取り入れた手法が有効と思われる。そのための具体的な手順を検討する。
2: おおむね順調に進展している
新規スレーター物質の発見には至らなかったが、これからの研究の進展を期待できる成果が得られ、それらをまとめた学術論文8報と招待講演等を通して、広く公表した。とくに、この報告書の執筆時点では学術論文が受理されていないが、スレーター絶縁体(NaOsO3)がこれまでのどの物質よりも強固なスピン-フォノン結合を持つことを中性子散乱、DFT計算によって明らかにした。恐らく史上最強のスピン-フォノン結合と思われ、スレーター機構との関連を調査している。発現機構の解明に有用と思われる。
オスミウム酸化物のスレーター絶縁体やイリジウム酸化物のモット絶縁体のように、5d酸化物は磁気的、電気的に顕著な特徴を有し、高機能性材料シーズの開発に適している可能性がある。5d電子系物質は①最外殻の5d電子波動関数が空間的に大きく張り出し、3dブロック元素の場合より固体内で顕著に重なり合っている、②スピン軌道相互作用が3dブロック元素の場合より相当な程度に大きく、③結晶場の影響が強く、これらの特徴がほぼ同じエネルギーレベル(~1-4eV)で拮抗しているため、いかなる既存材料の場合とも異なる競合状態を持つと思われるため、これらの特徴が作用する新規材料シーズの開発を進める。これにより、革新的な機能性を生み出す新材料シーズの創出に向けた新規ルートを開拓する。今後はさらに、オスミウム酸化物やイリジウム酸化物だけでなく、タングステン酸化物に着目した機能性開発を進める。
次年度に研究業務員1名を雇用するため。
平成27年度後半の実験計画を速やかに達成するため、平成27年10月頃に研究業務員1名を半年契約で雇用する。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 8件、 謝辞記載あり 8件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 5件)
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