研究課題/領域番号 |
25289245
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
殷 しゅう 東北大学, 多元物質科学研究所, 准教授 (40271994)
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研究分担者 |
佐藤 次雄 東北大学, 多元物質科学研究所, 教授 (90091694)
董 強 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (00643230)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | レアメタルフリー / 透明導電性材料 / 新規機能性 |
研究概要 |
200C程度の溶液プロセスを用い、ナノ粒子及びワイヤ状等の形態を有するタングステンブロンズの合成に成功した。合成したタングステンブロンズは混合原子価状態タングステン化合物であることが確認でき、優れた赤外線吸収特性を有すると共に、自由電子に由来する導電性も確認できた。混合原子価状態タングステン系ナノ粒子の物理化学特性は粒子組成と粒子サイズに強く依存することが分かった。粉体組成の最適化を行うことによって、自由電子密度の制御が可能であり、優れた圧粉抵抗特性を実現し、導電性物質として利用できることが明らかにした。尚、2.45GHzマイクロ波処理を加えることによる物質の迅速合成と微粒子化についても検証した。 水を溶媒とする通常の水熱法で合成したタングステンブロンズは水溶媒の大きな誘電率に起因し、粒子形態に秩序の乱れが出やすく、不均一な形態を有し、一次粒子サイズが>150nmの比較的大きな凝集粒子になりやすく、光の散乱が激しく、光化学特性向上の余地が残されている。これに対し、我々は、エタノール-酢酸混合溶媒のエステル化反応により粒子成長に大きく影響を与える水分子をゆっくり放出できる新規ソルボサーマルプロセスを開発し、均一な20nm以下のロッド状CsxWO3ナノ粒子の合成に成功し、優れた可視光透明性と780-2700nmの広範囲な赤外領域に渡る優れた光遮蔽特性を示すと共に、試料の圧粉抵抗は3.58Ω・cmに達した。更に、アルカリ金属を含まない混合原子価状態酸化タングステンW18O19もタングステンブロンズと同様の優れた赤光遮蔽特性を示すことが確認された。 尚、窒素・水素・アンモニアガス等のガス雰囲気処理を行うことによって、材料の自由電子密度や結晶欠陥、粉体導電性は制御可能であることを見出し、ITOの代替物質として、タングステンブロンズは有効な候補の一つであることが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで、固相反応法等の高温法による導電性物質の合成が主流であったが、高温反応であるため、ナノ結晶の合成及び形態制御が困難であった。我々は200C程度の水熱プロセス及びマイクロ波水熱プロセスを用い、初めて約150nm程度のタングステンセシウムの合成に成功した。更に溶媒と反応条件の最適化を通じて、水分子をゆっくり放出できる新規ソルボサーマルプロセスを開発し、約20nm以下の単分散タングステンセシウムナノ粒子の合成に成功し、極性・非極性溶媒の両方に優れた粒子分散性を有することを見出した。 合成したタングステンブロンズはタングステンが5+と6+からなる混合原子価状態であることが確認でき、優れた赤外線吸収特性を有すると共に、自由電子に由来する導電性も確認できた。 組成の最適化制御を行い、タングステンナトリウムはタングステンセリウムに比べ、格子中に取込まれるアルカリ金属イオンの量が多くなり、優れた導電性を示すことが分かった。更にタングステンブロンズはグラフェンと複合化することによって導電性向上の兆しを見出したので、次年度の研究目標をより具体的に設定することができた。尚、窒素・水素・アンモニアガス等のガス雰囲気処理を行うことによって、材料の自由電子密度や結晶欠陥、粉体導電性は制御可能であり、ITOの代替物質として、有効な候補の一つであることが改めて確認された。 以上の通り、本研究は交付申請書に記載した「研究の目的」をほぼ達成し、おおむね予定通り研究が進行している。尚、国内外学会及び学術論文を通して、関連研究成果を積極的に公表している。
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今後の研究の推進方策 |
1.物質創成:MxWO3(M=アルカリ金属Li,Na,K,Rb,Cs)物質群において、導電性を有するナノ粒子、ファイバー・板状粒子等の低次元形態を創製し、物質組成と構造の最適化を行うと共に、酸化物の異なった結晶面或は低次元・形態に由来する高次・新規機能性を確立し、電気導電性の更なる向上を目指す。尚、導電性に優れるグラフェンにも注目し、環境にやさしいソフト溶液プロセスを利用して効率良くグラフェンを合成できる手法を確立すると共に、タングステンブロンズ/グラフェン複合体の合成と導電性材料への応用を検証する。更に、溶液プロセスによる酸化亜鉛系導電性物質の創製を行い、遷移金属ドープによる導電性向上を検証する。 2.反応条件の最適化:引き続き反応条件の最適化を行い、ドーパント種類やドーピング量を制御すると共に、ガス雰囲気制御による自由電子と結晶欠陥の精密制御を行い、材料機能性向上と新規機能性発現を図る。 3.水をゆっくり放出する新規ソルボサーマルプロセス手法を確立すると共に、タングステンブロンズ材料に限定することがなく、粒子サイズと形態が精密に制御された様々な機能性材料への展開を目指し、その有効性を検証する。 4.成膜条件の検討:材料の薄膜化を行うと共に、バインダー種類、成膜液組成と成膜手法の最適化を行い、薄膜透明性制御を行う。 5. 光電気化学特性評価:合成した物質の圧粉抵抗・薄膜導電性評価を行い、希少元素Inが使われるITOの代替物質としての有効性を検証する。 6.導電性ナノ材料の新規機能性発現:自由電子に由来する導電性は様々な新規機能性をもたらし、導電性だけではなく、ガスセンサー特性、熱線遮蔽特性、赤外線温熱効果による癌細胞死滅効果等のバイオ治療への応用可能性を検証する。同一ナノ材料を用いるため、導電性粉体材料合成のノウハウを最大限に活用し、材料の新規機能性確立とマルチ機能性の検証を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
2013.10-2014.9の年度を挟んだ期間中ポスドクによる研究補助人件費が予定されているため、この期間中に研究費集中的に配分ことが必要である。一年目に比べ、二年度目の全体予算が少ないため、人件費配分、消耗品及び旅費のバランスを考え、一年目の一部を二年目で使用するする計画に調整した。 ポスドクによる研究補助人件費約200万円超を9月までに使用する予定である。残りは消耗品、旅費とその他に配分する計画である。
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