研究課題/領域番号 |
25289255
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所 |
研究代表者 |
北田 正弘 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 埋蔵文化財センター, 客員研究員 (70293032)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 文化財 / 日本刀 / 油絵具 / 古墳壁画 / 金属組織 / 非金属介在物 / 顔料 / 壁画汚染物質 |
研究概要 |
平成25年度の主な研究として、日本刀の微細構造、油絵具の微細構造および高松塚古墳壁画の漆喰および顔料等の微細構造研究を進めた。日本刀では、室町時代製作の兼光銘刀、江戸時代の繁慶銘刀、備前長船祐包銘刀等などで、刃のマルテンサイトのナノ構造を調べ、高転位密度型のラスマルテンサイトであり、炭素濃度の高いものでは、少量の双晶が存在することを明かにした。また、刀によるが、非金属介在物にはFeO、Fe2SiO4などの砂鉄由来の化合物のほか、同様に砂鉄由来のチタン化合物Ti2O5、TiOなどが存在することを見出した。刀によってチタン化合物の形状・析出形態が異なり、非金属介在物の組成と凝固課程に依存すると推定された。また、Mn、V、Zrなどの微量元素が検出され、これも刀によって異なり、使用した原料が異なる為と考えられる。 油絵具では、時代の変遷を調べる為、1965年代の絵具と現在発売されている絵具数種の微細構造を観察した。一例として、イタリア産の天然土を使用したローシェンナでは、TEM像および成分の解析から数10nmサイズのFe2O3が着色元素で、このほかにBaSO4、CaCO3、モンモリロナイト系粘土などが検出された。Fe2O3は数珠状あるいは扇状に連なって存在しているのが特徴で、鉄イオンを含む水溶液からFe2O3が晶出したものと推定される。油絵具のナノ構造までを分析したのは世界初である。 高松塚古墳壁画関係では、漆喰に付着した顔料の分析、漆喰等の表面の薄茶色汚染物質などのナノ構造を検討した。多くの壁画の表面を汚している薄茶色物質は粘土系物質で、針状のナノ結晶が漆喰表面に平行に沈積しており、茶色物質としては、ナノサイズのFe2O3粒子であった。これらは、雨等で浸透した水にコロイド状に溶けたものが壁画表面に沈積したものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、日本刀、油絵具、壁画材料等のナノ構造、物性、機能を目的に研究を推進しているが、使用する試料が順調に入手出来たこと、微細構造の観察には、従来から協力を得ている日立製作所・日本電子・リガクの他に、新たに物質・材料機構、東北大学、北海道大学のナノ支援を利用することが出来、順調に研究が進展した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の主な対象である日本刀、油絵具を中心とする顔料、高松塚古墳壁画等の研究を引き続き推進するとともに、これまでも進めてきた海外の鉄鋼・青銅・建築構造物等の研究も合わせて進める。特に挙げられるのは、高松塚古墳の顔料研究で、これらの殆どは国宝として指定されたもので研究に使用することが出来なかったが、奈良県立橿原考古学研究所に指定されていない破片が残されており、これらを用いて共同研究をする契約が代表研究者と研究所との間で結べたので、これを推進する。また、鉄器時代初期に製作されたと推定される東南アジアなどの青銅・鉄複合器を入手できる可能性があるので、入手できれば、これも研究の対象とする予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
(独)物質材料機構および東北大学のナノ支援プラットホームに技術代行で行って戴いた油絵具材料の透過電子顕微鏡観察利用料金が年度末近くまで確定しなかったため、利用料金の予算超過を考え予算を確保していたので、未使用の金額が生じた。 26年度も(独)物質材料機構および東北大学等のナノ支援プラットホーム技術代行を利用するため、これに使用する。
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