顔料、日本刀、高松塚古墳材料の微細構造の観察と解析などを行なった。顔料については、コバルト系緑色油絵具の微細構造を透過電子顕微鏡で観察し、0.5μmから1μmのコバルトクロメート、コバルトチタネートが着色顔料として使われていること、色彩および調整剤として酸化チタン、マグネシウム化合物が添加されている。これらが色彩と粘度などの機能を果たしている。 日本刀については、通常、刃紋形成のため冷却速度調整用の土置きをするが、これをしない直接焼入れした試料を作成し、刃紋の状態、断面と側面の金属組織、残留オーステナイト、X線回折によるひずみ、硬度分布、非金属介在物の電子顕微鏡観察と解析をした。 高松塚古墳の材料については、劣化した漆喰をμCTおよび電子顕微鏡で観察した。μCTでは直径が数μmから数100μmのトンネル状の空洞が多数生成していることを明らかにした。さらに、断面を走査電子顕微鏡で観察したところ、トンネルの壁には多数の微細な炭酸カルシウム粒子が存在し、トンネルの断面にも多数の炭酸カルシウムが針状に析出していることを明らかにした。これらは漆喰の成分である炭酸カルシウムが外部から浸透した水の中に溶解し、溶解した成分がトンネルの壁などに再析出したものである。漆喰成分の水への溶解は梅雨などの湿潤季に生じ、再析出は秋冬の乾燥季に生じたものと推定される。 また、高松塚古墳の壁画はカビによる汚染を受けたが、漆喰の表面に生じたカビのモルホロジを電子顕微鏡で観察した。カビの形状は大別して糸状と樹枝状を呈するものに分類された。カビの大きさは数μmから10μmであり、胞子状のものも観察された。カビをアルコールと塩素系漂白剤に浸漬し、その後電子顕微鏡で観察した結果、アルコールに浸漬した場合はカビ本体は形状を変えずに残留し、塩素系漂白剤に浸漬した場合は、大部分が溶解し消滅していた。
|