研究課題/領域番号 |
25289259
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
大竹 尚登 東京工業大学, 理工学研究科, 教授 (40213756)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 材料加工・処理 / 薄膜プロセス / アダマント薄膜 / コーティング / 炭窒化ホウ素 |
研究実績の概要 |
本研究は,ダイヤモンドを凌駕する超耐摩耗性コーティングを実現することを目的とするものである.黒鉛と六方晶窒化ホウ素からなる原料固体ターゲットを真空アーク放電銃により蒸発・イオン化させ,3元イオンビームとして基板に照射する装置により,成膜実験を行った.昨年度は,15GPa程度の硬さの膜が得られたので,今年度は,まずグラファイトターゲットから炭素のみの高硬さの膜を作製することに注力し,基板バイアス-100V,アーク電流50 A,成膜速度3.3 nm/mの条件において,テクスチャ構造を適用することにより,500nmの比較的厚い膜を硬さ62GPaと,ダイヤモンドの60%以上を示す膜を作製出来ることを明らかにした.テクスチャ構造を適用しない場合には,400nmの膜厚までしか作製出来ず,500nmの厚さでは,内部応力により剥離した.連続構造膜の内部応力は膜厚によらず,12~13 GPa程度であり,テクスチャ構造膜のみかけの内部応力は,連続構造膜と比較して一様に減少し,その値は9 GPa~10 GPaであった.連続構造膜の内部応力値に対して,テクスチャ構造膜で測定された内部応力値は,5 %前後の差はあるものの,およそ25 %前後減少している.一方,本研究で採用したテクスチャ構造は被覆率が75%程度であり,この構造をとることにより,被覆率は連続構造膜の約75%となる.被覆率は約25%減少しており,これは内部応力の減少割合と同程度である.以上のことから,高硬さを保ちながら厚膜を形成する手法を開発することが出来た.ついで,グラファイトターゲットの一部をボロンで置換し,上述の成膜条件を参考として成膜を行った.ボロンを導入することで硬さは大きく減少し,テクスチャ構造化の有無にかかわらず19GPa程度となった.この際の膜中ボロン濃度を分析したところ,約0.5%であった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度開発した,黒鉛と六方晶窒化ホウ素からなる原料固体ターゲットを真空アーク放電銃により蒸発・イオン化させ,3元イオンビームとして基板に照射する装置により,成膜実験を行った.500nmの比較的厚い膜を硬さ62GPaと,ダイヤモンドの60%以上を示す膜を作製出来ることを明らかにしたことは今年度の大きい成果であり,特にテクスチャ構造を利用して連続構造膜に対してどの程度作製可能な上限膜厚の向上が図れるかを検討した結果,基材や中間層など,成膜に際しての諸条件が全て等しい場合,内部応力の緩和の割合に従って作製可能な膜厚を向上させることが可能であった.この膜厚向上の効果を利用して,Si(100)基材上に連続構造膜では剥離をさせずに作製することが困難である膜厚400 nmおよび500 nmの膜を作製することができた.この厚膜化によって,膜表面の比較的柔らかい層の影響が相対的に小さくなるため,ナノインデンテーション試験による硬さ値は62 GPaを記録した.テクスチャ構造と厚さ500 nm以上の厚膜化を組み合わせることにより,どのような摺動条件下でも耐摩耗性の向上が可能となる高耐摩耗性膜の作製が可能であることが示唆された.一方,ホウ素を導入した際の硬さ減少を抑制する点は明確な課題である. 以上のことから,研究はおおむね順調に進んでいると判断している.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの知見を基に,一昨年度開発した,黒鉛と六方晶窒化ホウ素からなる原料固体ターゲットを真空アーク放電銃により蒸発・イオン化させ,3元イオンビームとして基板に照射する装置により炭化ホウ素及び炭窒化ホウ素膜の成膜実験を遂行する.最終年度であることから,膜の構造をRBS-ERDA(ラザフォード後方散乱-弾性反跳分析)により膜の組成の定量化を,NEXAFS(吸収端近傍微細構造),FTIR(赤外線吸収分光)により詳細に調べ,どのような生成過程でどのような膜が得られるのかを明らかにする.最後に,膜の機械的特性を調べ,本研究で提案している膜が,高い硬さと超耐摩耗性を有することを明らかにする.今年度厚膜を形成するプロセスを開発出来たことは,来年度に向けて大きい自信になっている.
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次年度使用額が生じた理由 |
今後の推進方策で述べたように,今年度作製した膜を含めて,来年度に膜の測定を多く行う予定であり,分析費を次年度に送ることとした.
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次年度使用額の使用計画 |
RBS-ERDA(ラザフォード後方散乱-弾性反跳分析),NEXAFS(吸収端近傍微細構造),FTIR(赤外線吸収分光)等の膜分析に用いる.
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